産経新聞が日朝関係について興味深い記事を出しています。3月21日付で「『安倍首相の電撃訪朝』を本気で心配する韓国・朴槿恵政権 日朝接近に神経ピリピリ」というタイトルで北朝鮮が日本に急接近している事実から韓国との力学を指摘しているものです。
まず、日朝政府間協議が1年4か月ぶりに再開されることが決まった上に北朝鮮の布陣がかなり真剣さを感じられるということをよんどころにしています。横田めぐみさんの娘との面会、更に赤十字会談もあります。
北朝鮮が日本にすり寄る理由は何でしょうか?
私が感じる第一の理由は北朝鮮の中国との関係悪化ではないかと思います。北朝鮮実質No2だった張成沢氏を処刑したことで中国とのパイプが切れたことが主因なのでしょう。北朝鮮にとって中国からの各種援助は同国の生命線とも言ってよく、それを処刑という形でブチ切ってしまったため、中国側も北朝鮮の今後の出方を読めないとみているのだろうと思います。
そこで北朝鮮からすれば南下政策を取らねばなりません。韓国との宥和もささやかれており、日本だけが特別扱いされているわけではありません。が、仮に私が北朝鮮の指導者ならば日本は絶対に取り込む重要国であります。それは国境を接していない点において利害関係が直接的ではなく且つ、経済大国、アジアの大国としてユニークなポジションにあるからであります。
一方、韓国としては微妙な立場に追いやられます。北朝鮮との融和を通じて場合により南北統一などという構想も無きにしも非ずの中、韓国世論は北朝鮮と仲良くなると日本と疎遠になり、日本と仲良くなると北朝鮮と疎遠になるという国民心理のバランスが崩れることになってしまうのです。その上、中国と北朝鮮の関係が悪化しているならば中国と韓国の良好な関係の中、韓国が北朝鮮と仲良くすることは中国にとっておもしろくない事態になってしまいます。
つまり、北朝鮮を取り巻く関係というのは利害関係や外交上の現状を踏まえると「片方が立っても片方が立たず」の状態になり案外スムーズに行くのは日本しかない状況にあるのです。
では、北朝鮮が日本に具体的に要求してくるであろう「ビジネス」を日本側がどう受け止め、外交力学から日本の立場をどう主張するか、これが最大のポイントになってくるでしょう。
そんな中、目先、一つだけ気になることがあります。先日、朝鮮総連ビルが高松のマルナカホールディングスによって落札が決定しました。マルナカは地元を中心としたスーパーマーケットが本業だったのですが、イオンにスーパーマーケット部門を売却し、今は不動産主流のビジネスを展開しています。そのマルナカが朝鮮総連ビルを落札したのですが、同社のコメントとしては同物件を一旦更地にして建て替える計画のようです。そうなれば入居する朝鮮総連は行き場を失うことになり、日朝間の問題に発展する可能性があるのです。
考えてみれば足利銀行が北朝鮮への送金ルートとして大騒ぎになったのは90年代。その送金の資金源はパチンコ店などからの収益。仮に今後、日本でカジノ法案が通ればパチンコ離れしたりパチンコ規制が出る可能性はあり、北朝鮮として日本を足掛かりにした資金ルート、更にはその不動産まで失うシナリオが完成してしまうわけで北朝鮮としては日本との関係改善を今のうちに図りたい必要性は当然あるのでしょう。
一方、日本としては韓国との外交の力関係において大きな意味をなすかもしれません。北朝鮮が日本になびく以上、韓国としては日本と協力関係を強化しなくてはいけません。最終的には中国もそれに興味を示すはずです。となれば、奇妙な結論ですが北朝鮮問題を巡るキーは日本にあるのかもしれません。
昨年12月20日の私のブログでは「彼(=金正恩)と話が出来る人は習近平でもバラク・オバマでもない気がします。もっと若くて彼のハートをつかむような人物が彼と接近したならば事態はもっと明快になる気がします。言い換えれば彼には今の地球上で起きているグローバル化、政治と経済と社会が複雑に入り組み、マスコミがいろいろ書き立て噂が噂を呼ぶ魑魅魍魎とした世界ではなく、もっと単純でストレートなアプローチで捉えるほうがよいというのが直感です。個人的には案外日本人で毒されていないセンスのある若手で政治家ではない人がキーパーソンになりえる可能性を秘めていると思います」と記しています。
私は今でもこの考えは変わっていません。日本と韓国がいつも揉めるその理由は歴史的関係があるからです。それは北朝鮮とも深い関係があるという前提に立てばオセロは白にも黒にもひっくり返せるということではないでしょうか?
この問題、非常に繊細ではありますが、日本が目的意識をもって立ち向かえば外交能力の評価は格段に高まるチャンスでもあるかと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。