今年の冬が厳しくなかったことはウクライナばかりか欧州諸国にとっても幸いだった。もし厳冬だった場合、エネルギーの貯蔵量が十分だとしても、心理的な圧迫度はかなり違っていただろうと考えられるからだ。換言すれば、欧州諸国は米国のようにプーチン氏に強硬姿勢で臨むことができなかったのではないか。
独週刊誌シュピーゲル電子版は3月28日、「われわれはプーチン・ガスに依存している」というシュテファン・シュルツ記者の記事を掲載した。興味深い内容なので読者にその一部を紹介する。
メルケル独首相は、「エネルギー政策を抜本的に再考しなければならない」と述べた。一方、メルケル政権で副首相を務めるガブリエル経済・エネルギー相は、「われわれには他の選択肢がない」と指摘、ロシアのガス依存状況を変えることはできないと強調した。
政権を率いる両者の意見は一見、対立しているように感じるが、シュルツ記者は、「両者の意見はまったく同意見だ。メルケル首相は長期的観点から、ガブリエル副首相は短期間のスパンからエネルギー問題についてその見解を述べただけだ」と説明する。
すなわち、ロシア産ガス依存の現在のエネルギー供給状況を変えるために、長期的には他のエネルギー源を模索したり、ノルウェー産ガスの輸出増加などが考えられる。しかし、ここ数カ月、数年間の短期間で欧州のエネルギー供給政策を抜本的に変えることは難しい。しばらくはロシア産ガス依存を余儀なくされる、というわけだ。
欧州連合(EU)は現在、プーチン・ガスを年間1250億立方メートル輸入している。これはEU総需要の約27%に該当する。このような莫大なエネルギー源をロシアから他の供給先に変えるためにはかなりの準備期間が必要だ。短期間では難しい。ノルウェーが日量1億3000万立方メートルのガスを増産し、EU諸国に輸出することはできるが、長期間、増産を続けることは難しい。カタールやリビアからのガス輸入も考えられるが、安定した供給先とは言えない。長期的にはロシア依存を脱皮できるが、短期的には難しいという結論になる。
英国、スぺイン、フランス、ポルトガスなどはプーチン・ガス依存度は低いから、対ロシア制裁で強硬路線を貫けるが、ドイツやポーランド、バルト3国は依存度が高い、それだけに対ロシア経済制裁にはどうしても躊躇せざるを得なくなる。
欧州諸国の対ロシア制裁で相違が出てくるのはイデオロギーや戦略的問題からではなく、ロシア産ガスへの依存度の違いに起因するわけだ。
ちなみに、オバマ米大統領はオランダ・ハーグの核安保サミットでクリミア半島を併合したロシアに対して、「欧州は連携して圧力を行使すべきだ」と強く主張した。
オバマ大統領は、欧州がプーチン・ガスに依存していることを知らないはずがない。だから、米大統領の強硬姿勢は、「いざとなれば米国が欧州へ原油・ガスを支援する」といったシグナル(原油・天然ガス輸出解禁)ではないか、と受け取られたほどだ。
ただし、米国内の法制・環境問題、議会内の反対などもあって、米国の対欧州エネルギー支援の早急な実施は期待できない。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。