資本主義の原罪 - 『コロンブスからカストロまで』

池田 信夫

 

マルクスは18世紀の農業革命や囲い込みを「本源的蓄積」と呼び、農民を土地から切り離して身体以外に売るもののないプロレタリアートにしたことが「資本主義の原罪」だったと述べたが、これは今の歴史学では疑問とされている。それに代わって注目を浴びているのが、新大陸のプランテーションである。

著者エリック・ウィリアムズ(トリニダード・トバゴの初代首相)は1944年に「西インド諸島の奴隷経済がイギリス産業革命の原因であって、その逆ではない」という「ウィリアムズ・テーゼ」を提唱して大論争を呼び起こした。彼によれば、16世紀以降、ヨーロッパ人はアフリカから1200万人の奴隷をカリブ海に連れてきて、砂糖のプランテーションを行なった。その利益はきわめて巨額で、これが資本の本源的蓄積になったのだという。

特にイギリス人は新大陸から一次産品を輸入してアフリカに売り、北米に奴隷を輸出する三角貿易で大きな利益を上げた。奴隷貿易はもっとも利潤の大きい重要な産業であり、その利潤率は16世紀にはほぼ100%で、このように新大陸から上げた巨額の利潤が資本主義の本源的蓄積になったという。


最近ではウィリアムズ・テーゼは実証的に疑問とされているが、三角貿易の重要性は学問的に確立された。スペインが新大陸の経営に失敗する一方、イギリスは非ヨーロッパ圏を国際分業に組み込んだ世界システムを築いた。資本主義は市場経済の「見えざる手」ではなく、植民地支配の「血まみれの手」で築き上げられたのだ。

本書の原著は1970年なので歴史的データは古いが、その主張は「世界システム論」であらためて注目されている。コロンブスが新大陸を「発見」したなどと書き、ヨーロッパ人が自分たちだけの力で「産業革命」を実現したという歴史観が、彼らの自民族中心主義であることを本書は鋭く告発している。