当方はこのコラム欄で「なぜプーチン氏を擁護するのか」(2014年3月29日)を書き、2人の元独首相の発言を紹介したが、独週刊誌シュピーゲル最新号(4月7日号)はドイツとロシアの複雑な関係を興味深く分析した記事を掲載している。クリスティーネ・ホフマン記者の「心の友」(Die Seelenverwandten)と題する記事だ。ウクライナ問題で揺れるドイツとロシアの両民族関係を知る上で非常に参考になる。
ホフマン記者は、「ドイツとロシアは特別な関係がある」という。ドイツ人はロシア人の未開性を軽蔑する一方、ロシア文化を尊重し、ロシアの民族魂に心酔するといったアンビバレント(相反する)な感情を抱いているというのだ。
ドイツは過去2回の大戦を経験し、ロシアと戦ってきた。その後、40年間余り、旧東独はソ連の支配下にあった。2回の大戦でドイツはロシア民族に多くの犠牲者をもたらしたが、ロシアは終戦後、ナチスの犠牲となった他のオランダや北欧諸国とは違い、ドイツの戦争責任を激しく追及することはなかった。両国関係は過去問題で日中関係のように険悪な関係に陥ったことはないのだ。
同記者は、「ロシアはドイツとの大戦を共同体験と受け取り、大戦を通じて両国関係は成長してきたと考えている」という。ロシアに収容されてから帰国したドイツ兵士たちはロシアの悪口を吐くものは少ない。「ロシア人は素朴で荒々しいが、想像を絶するほど心情的であり、精神的な民族だ」と証するドイツ兵士が多いという。
ドイツ人のロシア民族への好感はドイツ民族自身のアイデンティティと密接な関係があるからだ、という意見すら聞かれる。「ロシア兵士たちはウォッカを飲みながら、捕虜のドイツ人兵士の歌に涙を流しながら聴き入った」というのだ。
欧州には根強い反米主義が見られるが、ドイツ人の場合はそれだけではない。西欧文化の浅薄性を嫌悪し、東欧のロシア文化の深い精神性に憧れるという。
クリミア半島の併合問題で深刻化してきたウクライナ問題はドイツ人に厳しい選択を迫っている。欧州の盟主としてロシアの覇権主義を批判し、制裁を要求する一方、「欧米諸国の欺瞞性を指摘する声」も同時に聴かれる。ドイツ国民の半分はロシア側の主張に理解を示しているといわれる。欧米諸国の中でドイツ人ほどロシア民族を理解し、好感を抱いている民族はないのだ。
プーチン氏の政策に理解を示すのはシュレーダー氏やシュミット氏の2人の元独首相だけではない。経済的な利害関係だけではない両民族のつながりを無視しては理解できないことだ。広い大陸に展開するロシア民族の文化、精神性に対し、ドイツ民族には抑えることができない憧れがあるのだろう。冷戦時代のブランド元独首相(Willy Brandt、任期1969~74年)の“東方外交”はそのような背景から生まれてきたのかもしれない。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。