エネルギー論争は、20世紀の社会主義論争に似ている。資本主義は悪であり、不平等や貧困を生むので、それを全面的に廃止するしかない、というのが社会主義者の主張だった。この話の前半は正しいが、彼らがそれに代わるものとして実現した社会主義は、もっと悲惨な結果に終わった。
著者は、再生可能エネルギーも社会主義に似ているという。それが美しいようにみえるのは実現していないときだけで、それを原発の代わりにしようとしたドイツの実験は、悲惨な結果になった。
実は再生可能エネルギーの歴史は長い。人類はその歴史上の大部分で、木材という再生可能エネルギーに頼って暮らしてきたが、それには限界があった。その限界を打破したのが、化石燃料だった。その主役も初期の石炭から石油へと変わり、今は天然ガスが注目されているが、コスト面では石炭が有利だ。
再生可能エネルギーが「環境にやさしい」というのは錯覚であり、バックアップの火力が必要なので、ドイツのようにCO2は増え、大気汚染は悪化する。著者の推奨するのはLNGだが、日本の価格は世界一高い。これはエネルギー政策が「原発か反原発か」という無意味な論争に終始したからだ。いま日本で原発を新設することは政治的に不可能であり、経営合理的でもない。
しかし超長期を考えると、化石燃料には依存できない。著者は地球温暖化について懐疑的だが、それでもわからない部分が多いので、原子力のオプションを残しておく必要がある。その危険性ばかり大騒ぎするのはナンセンスで、費用対効果を定量的に比較したシミュレーションが必要だ。
本書はエネルギー政策の専門家には既知の話が多いだろうが、原発論争ばかりに労力が費やされるのは時間の無駄だ。エネルギー問題は何よりも経済問題であり、生活の問題である。本書に書かれているような具体的な数字をベースにして、現実的な議論をする必要がある。