アメリカに『完璧』を求める情けない態度はもうやめよう。

倉本 圭造

オバマ大統領が日本を、そして韓国を始め東アジア諸国を歴訪していることが連日のニュースになっています。

中でも日本国内で大きなニュースになったのは、尖閣問題について安全保障条約の適用範囲内だと大統領が公式に述べたことでした。(アメリカ国内では意図的なのか何なのかほとんど報じられなかったそうですが)

それについて、日本側が「ゴネ」たからだ・・・という見方ももちろんできるんですが、一方で「アメリカはここで引くわけに行かない」運命に飲み込まれているんだ・・・という見方も、我々は持ってみるべきではないかと私は思っています。

要するに、彼らが日常的に過去10年-20年の間維持してきた「特権的地位」ゆえに享受してきた「前借りした果実」というのがあるわけですよね。その「特権的地位を享受した過去」が「負債」となって今のアメリカには載しかかっているのです。

日本側としては、そういう状況をうまく使っていくことが大事になってくるはずです。

つまり、

「過去何十年間の間、あれだけ偉そうにしてたんですから、ま・さ・か!ここでNOと言ったりしないですよねえ(チラッ)」

というようなアメリカの弱みを、日本は握っているのだ・・・と言うことです。


ここで尖閣についてちょっとでも日和ったことをアメリカ大統領が言ったら、中国に圧迫されてる東南アジアの国々も「なーんだ、アメ公はあんな普段偉そうなのに、結局自分のことしか考えてねーじゃんか!」となって一斉に中国寄りになびいてしまう可能性がある。

だから、孤立主義を強める彼らの国内世論をある程度だまくらかす形になったとしても、やはり尖閣は安保の範囲だと言わざるを得ない状況にあるわけです。

そういうのは「国際的な役割分担」ですから、ヘンに卑屈になる必要もないし、堂々と「おい、おまえ、しっかりやれよ」という態度でいていいはずです。

私はオバマ大統領を最初に当選させた熱狂にはどうもついて行けないものを感じていたのですが、最近は、彼は彼で頑張って「今のアメリカとしてできる最善」は尽くそうとしてくれてるんだな・・・と思うようになりました。

我々東アジアの人間は、「彼が頑張ってここまで」やってくれたものを、「その先」にバトンを受け継いでいくことをやらねばいけないのかな、という感じですね。

今回のオバマ歴訪で、彼は日本では尖閣でリップサービスをし、韓国では慰安婦問題に配慮し、しかしその間もずっと中国への気遣いも忘れず・・・とホントあらゆる方向から板挟みになっていて大変だなあ・・・というような苦労をしていました。

彼は「日中韓それぞれ」の全てに常に配慮をし続けないといけない立場ですから、「日中韓それぞれ」の立場だけから見ると不徹底な、「自分たちだけの仲間でいて欲しいのに!」という気持ちには応えることができない状況ではあります。

しかし、「アメリカ文明の延長としてできる最前線」までは、国内的な反発という無理をしてもとりあえずちゃんとスジを通してくれているという点で、「まあ、頑張ってるんじゃないか」と思ってあげなくてはいけないのではないでしょうか。

一言一言本当に全世界中に気を使いながらコメントを出しているオバマの様子を見て、ちょっとかわいそうになった人も多いのではないかと思います。

彼らの苦しい事情もわかってあげた上で、東アジアが「大人の対応」をしてやる時なんじゃないかと思います。

要するに「アメリカの行動」に「完璧を求める」のは辞めて、「アメリカはどうせここまでしかできないだろうから、後は我々が引き受けよう」という「オウナーシップ」を、我々東アジアの人間が持つべき時が来ているんじゃないかってことですね。

オバマが示したのは、

「アメリカ文明としてとりあえず今はこう言うしかないという基準線」

なんですよね。

で、アメリカ文明は世界中で統一基準を作るのが役割ですから、東アジアの事情限定で取ってみれば、色々と間尺に合わない部分があって当然なんです。

同じ構図の問題は常に世界中にありますから、「うまくハマらない部分」は中東でも東欧でも相当大変な問題を引き起こしてしまっている。

その状況を考えると、アメリカ文明が現地の事情に「うまくハマらない部分」を「自分たち専用に作り変える」ことが我々東アジアの、そして日本のインテリさんの役割なはずです。

でも、今の日本のインテリさんは、

「アメリカ文明の延長に乗ってこない国内の“野蛮人”を、アメリカ文明の基準で裁いてしまう」

ことに熱中してしまってるんですよね。

そうじゃなくて、

「アメリカ文明に乗ってこない日本の本来の良さ」を、ちゃんと「アメリカ文明の延長として位置づける」ような知的作業こそが、日本のインテリさんが今やるべきこと

なんですよ。政治レベルでも経済の運営レベルでも経営の実務レベルでもね。

そういうムーブメントがほとんどないから、「本来もっとこういう良さがあるはずなのに!」という違和感が、ある意味で不幸な噴出の仕方をしているのがヘイトスピーチその他の過激さの問題なんですよね。

そこでやはり、日本のインテリさんは、「責任感」を持つべきではないでしょうか。彼らを「断罪」するだけでいいんでしょうか?

先日私が書いた「ネット右翼とかいう野蛮人どもを黙らせれば全て解決・・・なのか?」という多少煽ったタイトルの記事でどうしても伝えたかったのはそのことなんですよ。
http://www.huffingtonpost.jp/keizo-kuramoto/story_b_5183898.html?&ncid=tweetlnkushpmg00000067

彼らが不幸な形でしか表明できない感情を抱えているのは、「インテリさん側」の仕切り方が「アメリカ文明の尻馬に載って生身に生きている人たちを断罪する」だけになってしまっているからではないだろうか?

そういうことを、問いなおして欲しいんですよね。

世界中に共通システムを無理やりにでも導入することが重要だった過去20年間は、人類全体がアメリカやアメリカ文明を担っている存在に「大きな権力を本能的に信託」していたんですよ。

しかし、IT技術を含めて世界中に「共通システム」が普及した今となっては、「大雑把過ぎるシステム」に「我々の生身のリアリティ」を組み込んでいくことが重要になってくる時代なんです。

拙著「日本がアメリカに勝つ方法」から図を引用すると、20世紀のリベラルと、21世紀のこれからのリベラルに必要なモードは違うんですね。

そうやって「新幹線的言論」から「山手線的言論」への転換をしていくことで、「生身に生きている多くの人間を上から目線で断罪しない・むしろその良さを引き上げようとする知性」を社会に横溢させていくことが必要な段階なんですよ。

そうすることで、以下の図のように、

「アメリカ文明」が不可避的に押しつぶしてしまっているものを、「アメリカ文明」の内側に繰り込んで行く作業を、どこよりもうまくできるのがこれからの日本なんですよ。

アメリカが不完全なのなんて、誰だってわかってることですよね。でも彼らは彼らの「役割」的にどうしても譲れないものがあったりする。

ヘンに卑屈になったり無理に妥協したりする必要はないし、「彼らが彼らの役割として果たさないといけないこと」に関しては、もっと強気に「おい、おまえ、ちゃんとやれよコラ!お前が普段傲慢な振る舞いを許されてるのは、最低限コレぐらいはやるだろうと期待されてるからなんだぞ!」と言っていいんですよ(彼らはそういう言い方されるのが実は本能的に嫌いではない部分もありますしね)。

でも、いつまでも彼らに「完璧」を求めているのは、やっぱ良くないですよね。「彼らの事情としてここまでしかできないこと」を、「完璧」にまで繋ぐ仕事に、もっと日本のインテリさんは熱中していくべき時ではないでしょうか。

ネット右翼さんの中に過激すぎる良くない部分が発露しているとしたら、「彼らの発言の内容」でなく「彼らが何を守りたいと思っているのか」をちゃんと理解し、そして「彼らにはできないやり方で代弁」してやろうじゃないですか。

「彼らが良くない過激さを発揮しなくて済むような仕切り方」を考えるのが、日本のインテリさんの責任なんですよね。

そしてそれは、「アメリカ文明が知らずに踏みにじってしまったモノ」が世界中で噴出してくる時代において、「国内だけにとどまらない世界的に喫緊の課題」でもあるし、「我々が世界で一番うまくできるはずの課題」でもあるんですよ。

そういう、「あたらしいリベラル」を、はじめようじゃないですか。ネット右翼さんや安倍政権に文句言ってるだけじゃない、前向きなリベラルをね。

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・日中韓の歴史認識問題は、「アメリカ文明」の延長でなく「東アジアの文化的共有遺産の延長」によって解決するべきだ・・・という記事がコチラ
http://keizokuramoto.blogspot.jp/2014/02/blog-post.html

・日本の中の「ヤンキー」さんたちは「アメリカ文明が踏みにじったもの」とギリギリ共存できている「分断の世界の最前線的」問題であり、「彼らとの共有関係」を維持したまま「文明社会側」の一員であり続けることで、日本はどこにも基準点がない世界の最先端の希望になれる・・・という話がこちら↓
http://www.huffingtonpost.jp/keizo-kuramoto/mildyankee_b_5061712.html

倉本圭造
経営コンサルタント・経済思想家
公式ウェブサイト→http://www.how-to-beat-the-usa.com/
ツイッター→@keizokuramoto

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