ローマ法王の「韓国国民への伝言」 --- 長谷川 良

アゴラ

中央日報日本語電子版(4月26日)によると、韓国の天主教(カトリック教会)大田教区長のユ・フンシク主教は24日、バチカンでフランシスコ法王を謁見した。ユ主教は、韓国の珍島沖で起きた旅客船「セウォル号」沈没事故の犠牲者を哀悼した法王の祈祷に感謝の意を伝えたという。


▲バチカンのヨハネ23世とヨハネ・パウロ2世の列聖式=2014年4月27日、オーストリア国営放送の中継から(ヨハネ・パウロ2世は1984年、訪韓してヨイド広場で約100万人の信者集会を開いた)


同日報によると、フランシスコ法王は「韓国民すべてに深い哀悼を表す。若者に会いに行く訪韓を控え、多くの若い生命の犠牲を非常に残念に思う。韓国民がこの事故をきっかけに倫理的・霊的に生まれ変わることを望む」と強調したという。

中央日報の同記事はニュースランキングのアクセスでトップを飾っていたところをみると、多くの読者が法王の発言に感動を覚えたのだろう。
 
まだ多数の行方不明者がいる段階で時期尚早かもしれないが、韓国国民は同事故から教訓を引き出すべきかもしれない。「セウォル号」沈没事故の技術的、人為的な問題点は別として、フランシスコ法王が語った「韓国国民は倫理的、霊的に生まれ変わるべきだ」という点に絞って考えてみたい。

ローマ法王の発言内容はかなり異例だ。「国民に倫理的、霊的に生まれ変わるように」という内容は、韓国民の倫理的、霊的な現状が良くないという判断がある。それでは、何を変えるべきなのだろうか。

多数の若者たちが犠牲となった「セウォル号」沈没事故で国民はショックに陥り、「わが国は3等国家だ」、「後進国だ」といった自嘲気味な意見が聞かれる一方、政府の事故への対応を批判する声が溢れている。

ところで、韓国民族は大国に侵略され続けてきた歴史を持っている。外国の植民地政策や為政者の政略の犠牲となってきた。そのためか、韓国民族は問題が生じる度に加害者(国)を恨み、非難する一方、自己の不甲斐なさを嘆き、自嘲気味に陥ってしまう傾向がある。欧州では、3国分断など苦い経験をしたポーランド国民の野党精神(為政者への懐疑心)に少し似ている。

韓国国民の30%以上が信じているキリスト教が世界宗教と発展した背景には、その受難歴史があった。キリスト教会指導者や宣教師たちは受難を厭わなかった。その受難歴史はキリスト教の世界的発展の原動力となった。

もちろん、キリスト教会の受難と今回の旅客船沈没事故はまったく異なる次元の出来事だが、フランシスコ法王は「歴史の中で多くの受難を体験してきた韓国民族はキリスト教の歴史から学ぶことができるはずだ。加害者(国)を批判し、恨んだり、また逆に自己卑下するのではなく、それらの不運から発展の栄養素を吸収すべきだ」と期待しているのかもしれない。それが法王の「霊的に生まれ変わってほしい」という表現となったのだろう。

フランシスコ法王は8月14日から18日、韓国を公式司牧し、大田や忠清南道一帯で開かれる「第6回アジア青年大会」に参加する。ローマ法王の韓国入りまでまだ2か月半余りの時間がある。それまでに韓国国民はローマ法王のメッセージにどのように応えるだろうか。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。