日本はオバマ氏を信頼できるか --- 長谷川 良

アゴラ

オバマ米大統領のアジア4カ国歴訪は無事終了した。ワシントンは大統領のアジア歴訪を、日本を含むホスト国アジア4カ国は米大統領の訪問を、それぞれどのように評価しているだろうか。世界唯一の大国・米国の大統領公式訪問はアジア4カ国にとって大きな政治的価値があったことはいうまでもない。


最初の公式訪問先・日本では、オバマ大統領は安倍政権が願っていた「尖閣諸島に日米安全保障条約第5条が適用される」という内容を明記した日米共同声明を発表した。訪韓では、北朝鮮の核脅威に対して米韓両国の協力強化、訪問4カ国で唯一イスラム教国マレーシアでは4月27日、環太平洋経済連携協定(TPP)の早期妥結を確認し、フィリピンでは28日、米比の新軍事協定を調印するなど、ビジネスライクの米大統領らしく課題を次々とこなしていった。

ホスト国はゲストに対して独自の接待に腐心。安倍晋三首相は銀座の高級寿司の接待など工夫を凝らした。興味深かったのは、米国がホスト国にプレゼントを持参したのは韓国だけだった。韓国の文化財(大韓帝国の国璽など印章9点)の返還だ。

オバマ大統領らしく、北朝鮮の核の脅威に対峙する一方、国内で旅客船「セウォル号」沈没事故という悲惨な事態に直面する朴槿恵大統領への配慮が伺えた。それがソウルの記者会見で飛び出したオバマ大統領の慰安婦問題発言(「ひどい人権侵害だ」)の遠因だったかもしれない。

ホスト国4カ国に共通していた願いは東南アジア海域の覇権を狙う中国に対する米国側の公式表明だった。オバマ大統領は4カ国訪問でその期待に一応応えているが、大統領の発言にところどころ中国への配慮、気遣いが見られたことも事実だ。

問題は、オバマ大統領が「米国は中国の覇権を許さない」と警告したとしても、その発言に実行性が伴わない場合だ。オバマ政権の過去の外交政策を想起すると、その可能性は決して皆無ではないのだ。

シリア内戦勃発前やロシア・プーチン大統領のクリミア併合に対するワシントンの外交は常に臆病であり、腰が据わらず、実行力と貫徹力に欠けていた。それだけに、オバマ大統領のアジア4カ国時の発言がどれだけ政治的重みがあるか、と懐疑的に受け取る政治家も少なくない。
 
例えば、オバマ米大統領がウクライナ危機、それに関連したロシア問題を解決できない場合、中国の軍事攻勢に直面している日本、フィリピンは米国の公約に過大な期待を抱くことができなくなる。

独週刊誌シュピーゲル電子版23日付は、オバマ大統領の日本、韓国、マレーシア、フィリッピン4カ国歴訪に関する記事の中で、「ウクライナ危機がオバマ大統領のアジア歴訪の上に影」という記事を掲載していたほどだ。同誌もオバマ大統領の外交力にはかなり懐疑的だ。

オバマ政権はクリミア併合を実施したモスクワに毅然とした姿勢を貫き、譲歩を勝ち得るか、それともプーチン大統領の政策に屈服するか、アジア4カ国は注視しているだろう。後者の場合、米国が中国の領土野心を阻止する、と考えないほうが無難だろう。

オバマ大統領から「尖閣諸島に日米安全保障条約第5条が適用される」という明言を引き出した日本側も浮かれてばかりはいられない。

中国やロシアは、オバマ大統領を「戦争を恐れる米大統領」と受け取り、その領土的野心を実現するためにさまざまな変化球を今後も投げてくるだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。