アメリカの景気は回復しているのか? --- 岡本 裕明

アゴラ

このところのアメリカ発の経済統計を見ていると何が何だか分からなくなりそうな気がします。1~3月のGDPはわずか0.1%成長という低さに天候に原因を求めたようですが、同じ日に発表されたカナダの2月のGDPは堅調だったことを考えるとあれっと思いたくなります。

そして金曜日に発表された4月の雇用統計。28万8千人の純増という数字は事前予想の21万8千人を大幅に上回った上に失業率も0.4%ポイント改善して6.3%となり、その数字をそのまま見れば確かにホームランと叫びたくなるのもわかります。が、この数字をそのまま読めないことは市場の反応が如実に表しています。NYダウはほぼ無反応という流れにあるのです。

一体何がどうなっているのか、もう一度考えてみたいと思います。


まず、雇用統計の数字の裏に隠されたいたずらは労働参加率も0.4%ポイント下がって62.8%となり、1978年以来の低い水準を付けたのです。つまり、労働市場から人が脱出しているから雇用は引き締まった結果、失業率は大幅に下がったということであります。このシナリオはイエレン議長の思惑とは違います。議長はもともとアメリカの労働市場が改善に向かうことで諦めていた潜在労働者層が労働市場に戻ることを前提にしており、労働参加率は上がるという見込みを立てています。つまり、今回のように0.4%も下落するというのは予定シナリオと全く逆であると言えるのです。

勿論、一か月だけの雇用統計を見てその方向付けができるわけではありませんから今後も引き続きウォッチしなくてはいけません。ただし、労働参加率が長期的に下落傾向を見せていることは事実であり、ある時、それが反転するというイエレン議長の期待が労働市場がひっ迫しているからという理由では十分な説得力はないかもしれません。

私が考える可能性としていわゆるブーマー族のアーリーリタイアメントが思った以上に進んでいる点でしょうか? それはリーマン・ショック以降、企業が労働者に求める労働の質が大きく変わり、労働単価の下落と共にトヨタ方式のように高い労働効率を求める企業が増え、結果として脱落組を作ったと考えています。

また、アメリカは労働ビザの発給が厳しく、結果として「労働のグローバリゼーション」に伴う労働改革が遅延している点も指摘しておきましょう。実はカナダでは最近、外国人向け労働ビザの発給に関して飲食系の一部についてそのビザの発給を中止しました。理由はいくつかあるのですが、その一つがカナダの若年層の失業率への影響であります。ですが、雇用側の声は全く逆でアジア系の労働ビザが発給されないと立ち行かないと考えている飲食系経営者の声が多くなっています。理由は「アジア人は3倍効率で働く」とも囁かれる貢献度なのであります。

では、今日のブログのタイトルの「アメリカの景気は回復しているのか?」でありますが、一回ごとの経済統計の発表に一喜一憂していると大局を見落としそうになりますが、私は以前からの「匍匐前進」という見立てに変更はありません。理由は住宅市場の不振ぶりが足を引っ張るということでしょうか?

リーマン・ショック以降の住宅市場の統計を見ている限り、昨年秋にピークアウトしたように見えるのです。これは住宅市場の山は思ったより低かった可能性を示しています。金融危機で住宅を買いそびれた人達が景気の回復とともに住宅を買い始めたのですが、その分をほぼ取り戻し始めたということかもしれません。その上、金利が先々上がるかもしれないとなれば駆け込み需要が出るのですが、それも明白な傾向を示していないこと、そしてもっとも気になっているのは住宅の持ち家率が64.8%と19年ぶりの低水準になっていることが何を意味しているのか、ここを読み解かなくては答えが出そうにもありません。

経済環境が大きく変わったこの10数年の意味するものは数字の読み方も変わるかもしれないということです。この読みづらさが今日のアメリカの株式市場の「躊躇」を物語っているかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。