産業競争力会議で検討されている「一般社員にも残業代ゼロ」というニュースに、話題が集まっている。
1.年収が1千万円以上など高収入の社員
2.年収にかかわらず、労働組合との合意で認められた社員
のうち、本人の同意があった人を、時間外手当支給の対象からはずしてはどうかという。
新聞各社は批判的な論調だし、テレビで街行くサラリーマンにインタビューして「残業代ゼロをどう思いますか?」と尋ねれば、当然「絶対反対です」という意見が多くなる。
しかしながら、世の中を見渡してみれば、残業代ゼロで働く人は意外と多いことに気づくだろう。
・会社の中なら、役員や管理職(一部の研究開発職やSEなどの裁量労働制適用者)
・酒屋や八百屋、建築設計士、理美容室、整体、コンビニや開業医など自営業者
・農家や漁業、林業を営む人と家族
「それなら私たちだって」と主婦の人たちも言うだろうし、テレビでこの問題を批判している、庶民の味方のようなフリーのニュースキャスターや評論家のおばちゃん(決して固有名詞ではない)なども残業代ゼロで働いている。
話を戻そう。
1の年収1千万円以上の社員は、この際関係ない。1千万円以上もらっていて管理職じゃない社員なんて、大手商社やマスコミ、外資系金融や保険会社くらいしか思いつかない。
問題は2の「年収にかかわらず、労働組合との合意で認められた社員」だが、
厚生労働省の平成25年労働組合基礎調査によると、民営企業の労働組合員数の割合は、
1,000 人 以 上 - 63.6%
300 ~ 999人 - 14.3%
100 ~ 299人 - 7.6%
30 ~ 99人 - 2.5%
29 人 以 下 - 0.4%
と、1,000人以上の大企業は6割だが、1,000人未満の会社の大半は、労働組合という組織自体が既に存在しない。
これだと、単に大企業のためだけの規制緩和となってしまい、明らかにバランスを欠く。
また、工場のラインで働く生産職など、労働時間が生産量に直結するような職種においては、残業代をなくすということに無理がある。1時間残業すれば、確実に100個か1,000個か分からないが、確実に製品が出来上がるからだ。
すると、自ずと対象職種は限られる。労働時間とアウトプットが比例しない職種。ホワイトカラー全般ということになるが、アウトプットが明確にならない職種であれば、単に長時間労働を助長する結果につながりかねない。
そこで、まず
『外勤の営業系職種に限定した残業代規制緩和』
を提案したい。
売上など成果が見えやすく、一般に移動時間やアポイントまでの待ち時間なども多く、労働時間管理に馴染みにくい。
実は外勤営業職には今でも、外出中はみなし労働時間制を適用することができる。
<営業等の事業場外労働に関するみなし労働時間制>
労働基準法第38条の2第1項
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。
ところが、出先から会社に帰ってきて企画書や日報を書いている時間や、外出先であっても携帯電話などで具体的な指示のもとで勤務するケースなどは適用できないなど、制約も多い。
しかし、これだけ通信機器が発達している時代。企画書や日報なんて、自宅や移動中、街中のスタバでも書けるので、必ずしも毎日出社する必要はない。午後からのアポイントなら、それまで自宅待機していてもいい。逆に、知り合いと談笑しながら情報交換することもあるし、夜中に一人で企画のアイデアを考えている時間だって、移動中にヤフーニュースをチェックするのだって仕事の一部と言えなくもない。要するに、どこからどこまでが労働時間ととらえるのが難しい職種だ。
「そんなことをしたら、営業マンだけ残業代なしで損じゃないか」という心配もご無用。
仮に大卒初任給が20万円の会社が、「内勤職はこれに残業代がつきますが、営業職には残業代が出ません」としたらどうだろう。営業職への希望がなくなるだけでなく、既存社員の間でも職種間の不公平感が爆発する。したがって、内勤職が20万円ならば、営業職は22万円か24万円か、みなし残業分を上乗せした初任給を設定するだろう。
それでも心配なら、「内勤職の平均残業代相当額は、必ず営業職の給与に上乗せすること」を導入の条件としても構わない。要は、営業マンの残業代カットが狙いではなく、労働時間にとらわれない賃金の適用を可能にすることが、重要なのだから。
以上が現実的な労働時間法制改定の施策だと考えるが、いかがだろうか。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”