「ウクライナ危機では欧米も共犯者」 --- 長谷川 良

アゴラ

ウクライナ情勢は暫定政権側と親露派勢力の武力衝突でエスカレートする危険性が出てきた。5月25日の大統領選を控え、欧米側とロシアは激しいやり取りを交わしてきた。

日本のメディアを追っていると、ウクライナの暫定政権が正しく、それにチョッカイを出す親露勢力とそれを背後で支持するロシア側が悪者、といった構図で捉えられている面が強い。仕方がない面もある。日本人が得るウクライナ情勢はAP通信やロイター通信の配信記事に主に頼っているからだ。


そこで少し変わった視点からウクライナ情勢に関する記事を紹介する。オーストリアの著名なジャーナリストであり、著作家、ウルリッヒ・ブルナー氏の「ウクライナ危機、EUは共犯者だ」というタイトルの記事だ。

欧州連合(EU)が犯した最初の過ちはウクライナに自由貿易協定の締結を迫ったことだ。ウクライナの国力と経済力はEU加盟の条件からはほど遠い。ウクライナは現在、欧州ではモルドバに次いで欧州最貧国だ。その上、国家の腐敗体質インデックスでは179カ国中、134番目だ。ナイジェリアやアゼルバイジャンと同レベルだ。そのウクライナのEU準加盟交渉は両者にとって不幸なだけだ。ルクセンブルクのアッセルボルン外相は「ロシアの欧州統合を促進せずにウクライナのEU統合を試みたのは間違いだ」と、ズバリ指摘している。

ウクライナ第2野党ウダル(一撃)党首で元世界WBCヘビー級チャンピオン、ビタリ・クリチコ党首はキエフの暫定政権の同僚たちについて、「彼らは自分より金持ちだ」と述懐している。クリチコ氏はプロボクサーの元王者であり、ミリオネアだが、そのクリチコ氏が「暫定政権に関与している政治家たちは自分よりはるかに金持ちだ」と呟いたということは何を物語っているのか。

例えば、職権乱用罪で禁錮7年の判決を受け東部ハリコフの病院に収容されていたが、今年2月22日釈放されたユリヤ・チモシェンコ氏の資産総額は5億ドルと推定されている。すなわち、「マイダン広場の反政府デモ集会はヤヌコビッチ大統領ら既成の腐敗政治家を追放したが、その後釜に新たな腐敗政治家が君臨しようとしている」というわけだ。

一方、クリミア併合について、筆者は「クリミア問題でロシア民族はクリミア戦争(1853~56年)で50万人の犠牲を払い、第2次世界大戦でもクリミアを奪い返すために50万人の犠牲を払った。ロシア民族は過去2度、クリミアの併合のため100万人以上の犠牲者を出したわけだ。クリミアへのロシア民族の感情は特別なものがある」と説明する(筆者はクリミア併合問題ではロシアの主張を完全に支持)。

興味深い点は、筆者はプーチン大統領の対ウクライナ戦略を領土拡大を狙った“攻撃的”なものではなく、“防衛的”な性格が強いと分析していることだ。

ウクライナ東部はソ連時代から軍需産業の拠点であり、今なお戦闘機や潜水艦の部品などを製造し、モスクワに供給している。宇宙関連産業も同様だ。そのウクライナがEUに加盟したり、北大西洋条約機構(NATO)に加盟でもすれば、ロシアの防衛体制は崩れてしまう危険性が出てくる。そのため、プーチン大統領はウクライナを欧州側に奪われないために必死に防衛しているというのだ、

プーチン大統領をヒトラーやスターリンの再来と呼ぶ欧米のメディアがあるが、筆者は「プーチン氏はスターリンやヒトラーではない。もちろん民主主義者でもない。彼は独裁者、専制君主だ」という。

最後に、「プーチン大統領も嘘をつくが、欧米諸国もその点は同じだ。ブッシュ米政権は偽情報に基づきイラクに軍事侵入し、10万人以上のイラク人を殺害した。欧米、特に米国は『わが国の主張が正しい』と断言する資格はない」と述べている。

筆者のウクライナ情勢分析は明らかにロシア寄りだが、看過できない情報も含まれている。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年5月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。