片山逮捕で霞んだ朝日の予告付き特ダネ

新田 哲史

最近忙しくて、なかなかブログを書くヒマがないというか、お客さんの「目」があって書きづらいんですよね。僕の今の本業はコンサルタントであって、ライターではないにも関わらず、分析していないエクセルの生データを明日まで記事付けて出せなんてムチャぶり発注が多くて、そんな中でもブログ書くと怒られてしまいそうで、まー、業務体系見直しを考えているこの頃です。それでもこれは書いておかねばと思ったのが、朝日新聞の特ダネのお話なわけです。


※朝日新聞デジタルの「吉田調書」の特集バナー

すでにお読みの方も多いと思いますが、福島第一原発で、事故当時の所長だった故・吉田昌郎さんが、政府の事故調に対して答えた内容をまとめた「吉田調書」を、朝日新聞の記者が入手して特ダネとして放ったわけです。さっき近所のコンビニで紙面を買いましたが、所員の9割が一時「敵前逃亡」した事実が明らかになったわけです。吉田さんのまさに魂の激白とでもいいますか、後世に教訓として伝えたい思いが伝わってきますね。これは民主党政権の時の話なので、その後の政権交代を経ても、政府が調書を明らかにしないのには釈然としないような。

私は、メロリンQを筆頭とする「タロー族」の陰謀論にまみれた急進的脱原発論者には嫌悪感しか持ちませんが、隠し事をしているように見えてしまうほど、原発界隈の闇の深さを感じさせてしまうんじゃないんでしょうかね。安倍さんは、再稼働を目指すに当たって相当慎重なんだろうが、この際、前政権の“悪事”を暴きたてる勢いで徹底的に従来のファクトやウミを出し切った方が、国民的な理解を得るのに、むしろいいんじゃないかという気もしますが、官房長官は素っ気ない回答をしております。

ま、特ダネ自体の話はそれとして、今回「画期的」だと感じたのは、前日夕方に朝日新聞がウェブのトップニュースで「吉田調書を入手した」と予告記事を書いていたことですね。これ従来の新聞社の感覚ではあり得ないこと。紙面に掲載される内容を事前に告知すると他社に気付かれ、その日のうちに追いかけられてしまって、翌日の朝刊で「同着」になるから、ウェブで事前に情報を出すのはまかりならん、という「ペーパーファースト」主義だったんですよね。新聞の一面に載せるような特ダネ記事がウェブで出始めるのは、全社的に新聞の印刷作業が終わった後の午前2時~3時台が多いんですが、もちろん「予告なし」です。ちなみに「逮捕状請求」といった犯人の身柄が飛ぶ可能性がある特ダネがウェブ版にアップするのは、午前7時以降が多いというのは元記者としての小ネタです。

※前日18時にウェブで「予告」

朝日新聞の吉田調書の記事は、ネタ自体の社会的意義もさることながら、「ウェブファースト」を実現したという意味でデジタル時代の報道の在り方を示唆する上で大きな意義があると思うんですよね。もちろん、吉田調書のような機密資料は他社が入手できないという自信があってのことだと思いますよ。事前予告を出すことに現場記者の葛藤があったのかは大いに関心がありますね。ま、他社が数時間で追いついてしまうレベルのネタに広がっていくのは考えづらいんですが、「ペーパーファースト」に拘泥されてきた新聞社のニュースルームのマインドセットに風穴を開けた事例として特筆されます。他社が数時間で追いつけないネタといえば、やはり調査報道の類であって、考古学者によるねつ造を記者が捜査員ばりに張り込んで証拠を押さえた毎日新聞のド級スクープなんかは今の時代だったら「ウェブファースト」になれるかもしれません。

毎日新聞旧石器遺跡取材班
新潮社
2003-05



え?誰ですか、偉大なる産経新聞の放つド級スクープを、DQNスクープという失礼な奴は。え?ウェブファーストって最初に言い出したのは産経なのに全く出来ていないじゃないか」って。静かにしろ。

それにしても、朝日新聞の今回の特ダネ、二重に画期的だったにも関わらず、自称サイコパスの自作自演、自爆逮捕のニュースですっかり霞んでしまいましたね。新聞社時代の同期のアルルさんとかメロリンQとか原発事故当時に首相やってた人とかに言わせると、原子力村が世間の目をそらすために警察当局を動かした陰謀なんでしょうか。あー、くだらな。ではでは。

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ