ベージュブック:雇用は順調、住宅市場は下方修正 --- 安田 佐和子

アゴラ

米連邦準備制度理事会(FRB)が4日に公表した12地区連銀報告(ベージュブック)、サマリー部分の邦訳をご紹介いたします。米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策を決断する上の重要な資料であるこちら、↓以下は前回内容の全訳です。

FRBは6月4日、4月初めから5月半ばまでの調査結果に基づいたベージュブックを公表した。5月23日までに提出された報告をニューヨーク連銀がまとめた今回の調査では、全ての地区連銀が経済活動の「拡大(expanded)」を示した。ボストン連銀、ニューヨーク連銀、リッチモンド連銀、シカゴ連銀、ミネアポリス連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀の7地区連銀は「緩やか(moderate)」と報告。その他の5地区連銀は、「穏やか(modest)」にとどまった。前回と比較して、クリーブランド連銀とセントルイス連銀は成長「回復(picked up)」を認めつつ、カンザスシティ連銀は「わずかに鈍化(slowed slightly)」


前回:FRBは4月16日、2月後半から3月末までの調査結果に基づいたベージュブックを公表した。4月7日までに提出された報告をリッチモンド連銀がまとめた今回の調査では、ほとんどの地区連銀の経済活動が「加速した(increased)」。ボストン連銀、フィラデルフィア連銀、リッチモンド連銀、アトランタ連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀の8地区連銀は「緩やか(moderate)」と報告。シカゴ連銀は「回復(picked up)」し、ニューヨーク連銀とフィラデルフィア連銀は年初からの悪天候に伴う鈍化から「持ち直した(rebounded)」。クリーブランド連銀とセントルイス連銀は、「減速(decline)」を示した。

▽消費支出は様々なペースで拡大、製造業は東海岸を中心に順調

消費支出はほとんどの地区連銀において「様々なペースで(varied degrees)」拡大した。自動車以外の小売売上高は、ほとんどの地域で「緩やかに拡大(moderate pace)」。天候の改善が全般的に企業活動を押し上げつつ、北東部ではボストン連銀やNY連銀で冬が長引き売上の「重し(weigh)」となった。地区連銀の半数以上が、新車販売台数をにつき「急速に強まった(increasingly strong)」と報告しており、その他の地区連銀も「安定的(steady)」と伝えた。観光はほぼ全米から「安定的から強さを増した(steady to stronger)」との報告が聞かれ、特に東海岸で顕著だった。

各地区連銀のほとんどで、金融以外のサービス・セクターでは「成長(grew)」したが、ニューヨーク連銀とサンフランシスコ連銀は「まちまち(mixed)」だった。ボストン連銀をはじめカンザスシティ連銀、サンフランシスコ連銀は特にテクノロジー企業の間で「とりわけ強さ(particular strength)」を示した。輸送業活動はほとんどの地区連銀で「強まり(strengthen)」、リッチモンド連銀とアトランタ連銀は港湾部門で「活発な伸び(brisk growth)」を示し、クリーブランドは悪天候で弱まった反動を迎えた。製造業活動は全米で拡大し、セントルイス連銀やカンザスシティ連銀のほか、特に東海岸にある多くの地区連銀で特に強いペースを確認した。

前回:小売売上高はほとんどの地区連銀で「拡大し(increased)」、客足も戻った。自動車販売はニューヨーク連銀、リッチモンド連銀、シカゴ連銀、ミネアポリス連銀、サンフランシスコ連銀など5地区連銀で「増加(were up)」したが、カンザスシティ連銀とクリーブランド連銀では前年比で「ほぼ変わらず(little changed)」だった。

観光は全般的に「強含み(positive)」で、特にフィラデルフィア連銀のほかリッチモンド連銀、ミネアポリス連銀などでは、スキー旅行者が記録的な伸びを示した。夏場の予約動向は複数の地区連銀で「堅調(solid)」。非金融サービス動向をみるとボストン連銀、フィラデルフィア連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティ連銀で需要が「高まった(increased)」。ボストン連銀では、広告とコンサルティングが「強い(strong)」。リッチモンド連銀は、非小売サービスが「横ばい(flat)」で、セントルイス連銀は見通し計画に「減速(decline)」がみられた。

輸送セクターは、全般的にここ数週間で「強まっており(strengthen)」、港湾貨物量が増加しトラック輸送も「増加した(increased)」。輸送貨物で「軟調(soft)」だった地区連銀でも、見通しには「楽観的(optimistic)」だった。

製造業はほとんどの地区連銀で、「改善した(improved)」。複数の地区連銀は冬季の天候の影響が年初より深刻ではないと報告。シカゴ連銀とミネアポリス連銀は、「緩やかな伸び(moderate growth)」を確認し、ニューヨーク連銀をはじめアトランタ連銀、セントルイス連銀、ダラス連銀では「安定的なペース(steady pace)」で拡大した。サンフランシスコ連銀では、製造業が「いく分強さを取り戻した(gain some momentum)」という。その他の地区連銀ではリッチモンド連銀が「まちまち(mixed)」だった以外、「穏やかな(mild)」な伸びとなった。食料生産の需要は、ボストン連銀、リッチモンド連銀、ダラス連銀で「低下した(declined)」が、低下は天候に関与したものだった。鉄鋼生産は、複数の地区連銀で「回復した(picked up)」。

▽住宅不動産は「まちまち」、借り入れ需要は「強まり」示す

住宅不動産は全地区連銀の間で「まちまち(mixed)で、特にボストン連銀、ニューヨーク連銀、カンザスシティ連銀では在庫不足により販売戸数を抑えているとの報告が聞かれた。もっとも、住宅価格は上昇し続けており、コンドミニアムやアパートなどの賃貸需要も「活発(robust)」だ。不動産建設活動は「まちまち(mixed)」で、地区連銀の半分は「強まり(increase)」をみせたものの、数地区連銀は「活動の弱まり(weakening)」を報告した。ただし、複合住宅は「特に活発(particularly robust)」な状態を保つ。しかし、非住宅建設活動と商業不動産市場は、全般的に前回と比較し「安定的かつ強まりを示す(steady to stronger)」状態だった。

ニューヨークをはじめ、賃貸需要は旺盛。

(出所 : newyork.com)

貸出動向は全米で「強まった(increased)」。ほぼ3分の2の地区連銀が「借り入れ需要の高まり(rising loan demand)」を確認し、特にニューヨーク連銀とサンフランシスコ連銀で顕著だった。信用の質および債務支払い遅延率は全般的に「改善した(improved)」一方、信用基準は前回と「ほぼ変わらず(mostly unchanged)」だった。

農業活動では、ダラス連銀やサンフランシスコ連銀のほか、シカゴ連銀の一部が干ばつを報告した。一方でアトランタ連銀、ミネアポリス連銀は過剰な湿気が作付けに遅れをきたしていると説明。エネルギー活動は、ほとんどの地区連銀で「強まり(strengthen)」を示したが、石炭の生産はクリーブランド連銀で安定的した一方、リッチモンド連銀では減少した。

前回:不動産市場に関する報告は、「様々だった(varied)」。しかしながら、ほとんどの地区連銀で住宅価格の伸びは「控えめ(modestly)」となり、在庫は低水準を保った。住宅建設は複数の地区連銀で「増加した(increased)」とはいえ、クリーブランド連銀をはじめセントルイス連銀、ミネアポリス連銀の3地区連銀では「減少した(decrease)」。商業建設は、「穏やかな減少(mild decline)」を示したクリーブラン連銀を除き「強まった(strengthened)」。産業向け不動産市場ではニューヨーク州南部とニュージャージー州の北部で「ひっ迫(tightening)」がみられた。

借入需要は、前回のベージュブックから「強まった(strengthened)」。信用の質はフィラデルフィア連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、カンザスシティ連銀で「改善(improved)」した。ニューヨーク連銀とダラス連銀では、特に「強い伸び(strong increase)」を確認。ニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀では、大寒波が住宅販売件数と住宅ローン需要を減少させた。商業向け借入の規模はそれぞれの地区連銀で「拡大し(grew)」、セントルイス連銀のみ「わずかに減少した(declined marginally)」。

農業活動は「まちまち(mixed)」で、悪天候要因から穀物の作付けから出荷に遅れが生じた。豚ウィルスがリッチモンド地区連銀、シカゴ連銀、カンザスシティ連銀、サンフランシスコ連銀で畜産業に影響を与えた。エネルギー産業では、石油と天然ガスの生産が「増加(increased)」した一方で、石炭は「減少し続けた(continued to decline)」。

▽賃上げ圧力は「抑制的」、物価は「安定的から、やや上昇」

労働市場は最新の調査で全般的に「強まり(strengthen)」を示し、雇用活動は「安定的からさらなる増加(steady to stronger)」を報告している。複数の地区連銀は特殊技能職の不足を指摘した。

特殊技能職不足は、数年近く指摘され続けてます。

(出所 : Miratrakht)

ほとんどの地区連銀で、賃金上昇は「全般的に抑制的(generally subdued)」だったが、シカゴ連銀やダラス連銀は医療保険のコスト増を指摘した。モノの仕入れ価格と最終価格、サービスはほとんど「安定的かやや上昇(steady to up slightly)」を示した。

前回:労働市場は「まちまち(mixed)」ながら、全般的に「強含んだ(positive)」だった。ニューヨーク連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、シカゴ連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀では、特殊技職の確保が困難と伝えられた。

ほとんどの地区連銀で、賃上げ圧力は「抑制的あるいは最小限(contained or minimal)」だった。ニューヨーク連銀は「まちまちな賃金圧力(scattered wage pressures)」を確認し、クリーブランド連銀では「抑制されていた(contained)」。ただし、ダラス連銀は「複数の産業(several reports)」で上昇圧力がみられた。

物価は全般的に「安定的あるいはわずかに上昇した(stable or slightly higher)」。ニューヨーク連銀は製造業で「抑えられており(subdued)」、サービスでは「安定的(steady)」だった。フィラデルフィア連銀では、製造業の仕入れ価格と販売価格が「小幅上昇した(edged up)」。リッチモンド連銀では、原材料と最終財の価格が前回のベージュブックより「上昇が鈍った(rose more slowly)」。複数の地区連銀は、建設の仕入れ価格および家畜の上昇を報告。クリーブランド連銀ではコンクリート、石壁、木材の価格が上昇した。一方でカンザスシティ連銀では、石壁と屋根の価格が上昇し、今後もさらなる値上がりを見込んだ。

以上の内容を踏まえ、主なポイントは

1)経済活動は、「加速」から「緩やかから穏やか」へ下方修正

2)消費支出は前回通り「拡大」も「様々なペース」

3)製造業活動は、全般的に拡大

4)住宅不動産は「まちまち」、前回の「様々」から下方修正

5)住宅建設活動は「弱まり」示す、複合住宅は「活発」

6)借入需要は前回に続き「強まり」を示す、債務遅延率などは「改善」

7)賃金は前回と変わらず「抑制的」

8)物価は「安定的からやや上昇」、前回の「安定的あるいはわずかな上昇」とほぼ変わらず

BNPパリバのイリーナ・シュヤルティバ米エコノミストは、結果を受け「自動車セクターが製造業をけん引した」と評価。もっとも、全般的な経済活動の記述は4月分の「強まりを示した」から下方修正されるなか、“弱い(weak)”に関連する言葉の登場回数が今回25個と、過去14年間で最小だった前回の14個から増えたとも指摘した。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年6月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。