安倍首相とフランシスコ法王 --- 長谷川 良

アゴラ

世界に12億以上の信者を有するローマ・カトリック教会の最高指導者ローマ法王フランシスコは息つく暇もないほど忙しい。法王就任2年目に入ったが、就任直後76歳の高齢だった。そんなことを考えていた時、バチカン法王庁から「日本の安倍晋三首相が6月6日午前(現地時間)、バチカンでフランシスコ法王と会見する」という短信が流れてきた。


南米出身のフランシスコ法王は清貧を勧め、自ら模範を示し、教会という枠を超え人気が高いこともあって、世界の指導者たちのフランシスコ詣では後を絶たない。安倍首相もここはフランシスコ法王の人気にあやかって、国際社会で流れている「民族主義者」というイメージを少しでも改善したいところだろう。安倍首相はブリュッセルで開催された先進7カ国(G7)首脳会談に出席後、イタリアを訪問し、ローマ法王を謁見し、レンツィ首相とも会談する予定という。日本の首相がイタリアを訪問するのは2009年以来だ。

偶然かどうかは知らないが、同日、ポーランドの自主管理労組「連帯」元指導者で同国の民主化の原動力となったレフ・ワレサ氏がフランシスコ法王を謁見する予定だ。ワレサ氏は熱心なカトリック信者だから、一信者として教会最高指導者ローマ法王と会見するのは最高の栄誉だろう。安倍首相の場合、日本代表として会見するわけだから、宗教色はない。だから、フランシスコ法王と会見直後、安倍首相に「ローマ法王会見は日本首相という公人の立場ですか、それとも首相個人の立場ですか」と馬鹿げた質問をする日本のメディアはないだろう。

日本では過去、大平正芳元首相(聖公会信者)や麻生太郎元首相はクリスチャン政治家として有名だった。特に、麻生氏はカトリック信者だ。日本の与党・自民党の総裁選で麻生幹事長が2008年9月22日、圧倒的な勝利をした時、バチカン放送は「日本で初のカトリック信者の首相が誕生」と急報を流し、カトリック信者の首相誕生に大きな期待を寄せたほどだ。バチカンにとって残念だったことは、麻生氏の首相任期が他の日本の首相と同様、短期政権(1年弱)で終わったことだろう。歴史では「もし」はタブーだが、麻生政権が小泉純一郎政権のように5年間以上の長期政権となっていれば、ローマ法王の日本訪問も実現したかもしれない。

ところで、安倍首相とフランシスコ法王は住んでいる世界が違う。前者は権力争いが絶えない生臭い政界だ。後者はイエスの福音を中心とした宗教界だ。住む世界は異なるが、2人には共通点もある。安倍首相は憲法改正を含む戦後政治の改革という大きな課題を掲げている一方、フランシスコ法王は聖職者の未成年者への性的虐待事件や聖職者不足などに直面する教会の抜本的な改革を推し進めている。ナウな言葉でいえば、両者とも「チェンジ」を叫んでいる指導者だ。ただし、その叫び声が実りをもたらすかは現時点では不明だ。いずれにしても、首相とローマ法王は住む世界は異なるが、案外、改革者として意気投合できるかもしれない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。