ウェアラブル端末にも匂うスマイルカーブの罠

大西 宏

ニューヨーク・タイムズがアップルのティム・クックCEOを取り上げ、噂されるiWatchプロジェクトに関しては、ティム・クックCOEOは細部には関心がなく、心拍等の重要な生命信号の監視能力や、どうやってそれが、医療を情報に基づいた効果的なものにでき、いかに人の健康に役立つかに集中していると伝えています。
Apple CEO、ティム・クックはiWatchの細部に興味がない(NYT紙) | TechCrunch Japan
それが、アップルにとっては、SONYやサムソンと同じようなiWatchをつくることはさほど難しくないはずにもかかわらず、なかなかiWatchが登場してこない最大の理由のように感じます。


直感的に感じるのは、ウェアラブル端末の多くの先には、ビジネスの世界で言うスマイルカーブ現象が起こってくるだろうということです。おそらく、アップルもそう思っているということだと思います。

スマイルカーブとは、多くの産業で起こってきている現象ですが、部品や素材、またOSなどの産業の上流と、販売やサービス、またブランドを含めて、最終的に価値をユーザーに提供する下流では利益率が高めることができるけれど、中流を担う製造は利益率が低下してしまうことです。それをグラフにすると、ニコニコマークのように笑っている口元に見えるのでスマイルカーブと呼ばれています。

スマートウォッチを例にとって見れば、ひとつにはスマートフォンの機能を補う、あるいは拡張する製品として考える方向があります。例えば、メールが来ていることを知らせてくれたり、予定時間が迫っていることを警告してくれたり、はたまたタイムスクープハンターのように時計に向かって通話するとかです。
確かに人によっては便利かもしれませんが、別になくとも困る機能でもないし、生活がそれで変わるというものでもありません。その範囲では、しょせんスマートフォンなど便利にする周辺グッズのポジションしか得られません。もしかするとヘッドフォンのほうが必需性が高いかもしれません。

しかも、どのメーカーでもつくれるので競争は激しくなってきます。また時計であるかぎり、そういった機能だけでなく、アクセサリーとしての役割も大きく、デザインやブランドの多様性が重要になってきます。そうなるとどこか一社が強いブランドになることは想像できません。もし普及したとしても、激しく価格競争で競うブランドと、デザインで付加価値をつけるブランドに2極化してくるのではないでしょうか。

もうひとつのあり方は、健康センサーの役割を果たすスマートウォッチです。リスト型はそれに特化しています。人の動きやさまざまな健康状態を感知して、なんらかの情報を返してくれるスマートウォッチです。例えば、ウォーキングやジョッギングで、歩いたり走った距離、消費量や消費カロリー、さらに脈拍数など、なんらかの健康指標を示したり、それをもとにしたサゼッションを返してくれるというものです。スマートフォンを持っていなくとも、リストのウォッチが、その人がどこを走っているかを示すこともできるのでしょう。

この場合、他にはできない価値を提供するためにはなにが重要になってくるのでしょうか。おそらくひとつはセンサーでしょう。もっと価値があるのは、センサーから送られてくるデータをもとに、それを処理し、インターネットを通じて情報が提供されてくる裏にある仕組みです。機器はそれらをつなぐ道具でしかありません。ビジネスとしては、センサーなどの上流の技術を抑えるか、下流の情報サービスを抑えるか、全体の仕組みを提供するところが利益を得ますが、モノだけにいくら凝っても価値は高まりません。

つまり、ウェアラブル端末で成功しようとすれば、上流と下流のしくみのいずれかでナンバーワン、あるいはオンリーワンになるかです。そのためには生活が変わるような新しい目的を生み出せる企業というのが条件になってきます。

このことはモノとモノをつなぐインターネットでも言えそうです。スマートフォンから帰宅直前に外からエアコンのスイッチを入れることができるとか、家電の操作ができるようになるといったことがよく紹介されています。それも、便利でしょうが、それを超えるものではなく、インパクトはありません。社会のインフラともつながって、たとえばセキュリティでいえば、緊急事態には救急車やパトカーが駆けつけてくれるぐらいのものでなければ新しいという感じがしません。

それよりは、モノとモノをつなぐインターネットは産業の設備や、工程を変える新しい仕組みをつぎつぎに生み出してきそうです。クラウドとつながって、集中管理や自動管理を促したり、異常をいち早く察知し、対処するといったサービスを広げてくると思います。

いぞれにしても、ウェアラブル端末も、モノとモノをつなぐインターネットについても、製品やモノに偏りすぎて敗北したきた家電の教訓を学び、新しい目的の開発やそれを支える仕組みの開発に集中する企業が登場してくることを期待したいと思います。