特に個人消費の減少が大きい最大の原因は、実質賃金の低下である。日銀の黒田総裁は「消費増税のせいだ」というが、それは間違いだ。図のように、実質賃金と失業率には相関がある。賃下げが「デフレ」の原因であってその逆ではないので、「デフレ脱却」しても賃下げは止まらない。むしろインフレによって賃下げが激しくなった。これが消費の落ち込んだ原因だ。
有効求人倍率は1.1倍になって「人手不足」といわれているが、正社員の倍率は一貫して1以下で、非正社員の求人が増えている。その部門別の内訳も、次の図のように不均等だ。医療と建設は慢性的に人手不足で、外食・販売などの非正社員も足りないが、事務職・管理職の正社員は大幅に余っている。だから牛丼屋のアルバイトは時給を上げても集まらず、ホワイトカラーは余ったままなので実質賃金が下がる。
6月の有効求人倍率(出所:厚生労働省)
要するに、労働市場のミスマッチが改善されないため、人手不足の中で賃下げが続くのだ。これはある意味では、日銀のねらい通りである。実質賃金を切り下げて企業収益を上げることが、インフレ政策の目的だからだ。
しかし賃下げで収益を上げても「好循環」は起こらない。消費が縮小するので企業の投資は拡大せず、縮小均衡に陥る。鉱工業生産指数は半年で8%近く下がった。企業は賃下げで稼いだ余剰資金を貯蓄し、あるいは海外投資に向けているのだ。その最大の原因が、円安とエネルギー価格の上昇による交易条件の悪化である。
黒田総裁は「貿易立国」の幻想にすがって円安で景気を回復しようとしたが、これは逆効果だった。輸出は増えず、エネルギー輸入額は激増して、経常収支まで赤字になった。日本の停滞の原因は「デフレ」ではなく、アジアとの競争が激化する中で、貿易立国からの転換が遅れていることなのだ。
だから必要なのは追加緩和ではなく、FTとEconomistがともに指摘するように、雇用を流動化してミスマッチをなくすことだ。厚労省が正社員の過剰保護をやめ、自由な働き方を支援することが、今もっとも重要な政策である。合宿では、こういう問題も議論したい。