ISに対抗し、宗教者が結集へ --- 長谷川 良

アゴラ

シリア、イラクの一部を占領し、カリフを宣言するイスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」(IS)に対して、イスラム教内で「あれはイスラム教とは関係がない」という怒りの声が上がってきている。同時に、ISに虐殺されている少数宗派キリスト教関係者からは「宗教の名を使ったテロ組織に過ぎない」といった批判が上がっている。

▲ホーフブルク宮殿の式典ホールで開催されたKAICIID創設祝賀会(2012年11月26日、撮影)


「少数宗派の信者や異教徒を虐殺するISに対して、宗教界はISに対抗する国際戦線を構築すべきだ」という要望が聞かれ出した。それを受け、ウィーンに本部を置く国際機関「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)は、世界の宗教指導者を招請して対IS決起集会を開催する予定だ。KAICIIDは2012年11月26日、サウジアラビアのアブドラ国王の提唱に基づき設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ。

KAICIIDのクラウディア・バンディオン・オルトナー副事務局長は22日、「ISの非情な虐殺 暴虐をもはや傍観することができない。イスラム教指導者もISに対して明確に批判している。ISは蛮行をカムフラージュするために宗教を利用しているだけだ」と指摘し、「KAICIIDは近いうちに対IS決起国際集会を開催する」と発表した。ISに対抗するため、宗教者が総結集するというわけだ。

サウジアラビアのスンニ派の大ムフティー(イスラム宗教指導者の最高位)は先日 過激なイスラム集団に対して「イスラム教スンニ派の教えと全く一致しない」と、ISに対して明確に距離を置く発言をしている。一方、世界最大キリスト教会のローマカトリック教会フランシスコ法王は18日、訪韓からローマへ戻る機内の記者会見で、イラク軍と米軍がISの拠点に空爆を実施したことに対し、「ISに対する国際社会の戦闘は合法的だ」と述べ、バチカンとしては 珍しく武力行使容認とも受け取れる発言をしているほどだ。

ところで、イラクの首都バグダッド北東のディヤラ州で22日、イスラム教シーア派民兵と見られる武装集団が、スンニ派のムスアブ・ビン・ウマイル・モスクを襲撃し、70人が死亡、20人が負傷したばかりだ。シーア派信者を襲撃するスンニ派ISに対する報復だということは明らかで、イスラム教の2大宗派、シーア派とスンニ派の戦いがエスカレートする危険性も排除できなくなってきた。

宗派、教派の違いを超え、ISに対する批判の声が上がり、宗教者の間で連帯の動きが出てきたことはこれまで見られなかった現象だ。それだけ、ISが危険なテロ組織だということになる。21世紀のわれわれの前に、中世時代の武装集団が突然、近代的な武器を持って戦いに挑んでいる……。そのような錯覚すら覚えるほどだ。遅すぎることはない。宗教者は時を移さず、総結集し、ISに対して立ち上がるべきだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。