問題の1992年1月11日の記事について、木村氏は「それ自身が如何なる『過誤』をも含んでいない」というが、何をとぼけているのか。誤報サイト(クリックで拡大)が指摘するように、この記事につけられた「挺身隊の名で強制連行」という囲み記事こそが、問題の爆発した原因なのだ。木村氏は
同紙の過去の報道は、単に誤謬を広めた「害」しかなかったのか、それとも従軍慰安婦問題という日韓両国のみならず国際社会においても重要な女性の人権に関わる積極的な問題提起を行うことで、日韓関係や女性の人権問題に関わる何らかの貢献を行ってきたのか。
と書いているが、彼の論拠が失われたことは、今回の朝日自身の記事で明らかだ。朝日の報道には、害しかなかったのだ。強制連行がなければ、日本軍の慰安所で特別に凶悪なことをやっていたわけではない。むしろ普通は戦場では強姦がやり放題になるのを「女性の人権」に配慮して軍が面倒をみた制度なのだ。
木村氏は「主役は韓国政府で、朝日の報道がなくても騒ぎになった」といいたいようだが、これも誤りだ。80年代まで日韓政府で問題になっていたのは、男性労働者の強制連行だった。正式の徴用は245人だが、官斡旋で内地の炭鉱などで働かされ、逃げると殺された労働者もいた。これについては、日本政府も監督責任がある。
朝日の報道が重大なのは、韓国政府が個人補償を求めていた強制連行に、無関係な慰安婦を混同したことなのだ。それまで朝鮮で「慰安婦」といえば、朝鮮戦争のとき米軍の使っていた娼婦(洋公主)の補償問題だった。それが朝日のおかげで、第二次大戦の慰安婦にすり替わって大騒ぎになったのだ。東亜日報のデータベースではこうなっている。
年度 日本軍慰安婦記事数 米軍慰安婦記事数
1951-55 1件 17件
1956-60 0件 36件
1961-65 0件 56件
1966-70 1件 118件
1971-75 5件 39件
1976-80 0件 20件
1981-85 4件 9件
1986-90 5件 8件
1991-95 616件 3件
このように80年代まで、日本軍の慰安婦はほとんど問題になっていないが、90年代に記事が爆発的に増えた。男性労働者の「強制連行」と米軍の使っていた「慰安婦」という別の問題を朝日の植村記者が(おそらく意図的に)混同したことが、大混乱の発端だった。朝日の誤報がなければ、日本軍の慰安婦が外交問題になることはなかった。逆にいえば、朝日が強制連行を否定した段階で、この問題は終わりなのだ。