人身売買って何?

池田 信夫

慰安婦の話は、よい子のみなさんの教育上はよくないのですが、世の中には基本的なことを知らない人が(特に外人に)多いので確認しておきます。たとえば米国務省のサキ報道官は「性的な目的のために女性の人身売買に旧日本軍が関与した、嘆かわしく深刻な人権侵害だ」とのべそうですが、これはまちがいです。


人身売買というのは人間を奴隷のように売り渡すことですが、アメリカの黒人奴隷のように死ぬまで働かせるケースは日本では少なく、多くの場合は年季奉公です。これは親が売春の仲介業者(ぜげん)から金をもらって「年季が明けるまで娘を働かせてもよい」と約束するのです。

売春というのは、普通の女性は好んでやらない仕事なので、何らかの「強制」が必要です。たとえば40円で売られた娘は親の借金を負わされ、1年に4円の給料をかせいで借金を返すと、10年で年季が明けます。売春宿は彼女がその借金をぜんぶ返すまで拘束します。

売春婦は「遊女」などといわれて華やかな生活をしていたと思われていますが、性病にかかって年季の明ける前に死ぬ人が多かったそうです。吉原の遊郭(売春宿)のまわりには深い堀があり、火事のときは多くの遊女が堀に飛びこんで死にました。

だから人身売買で売春を強制した主語はその娘の親なのです。親に「うちの家計を助けるために身売りしてくれ」と頼まれたので、泣く泣く売春宿に売られていったのです。ここをまちがえる「人権派」のみなさんが多いので、注意が必要です。

人身売買は、戦前も違法だったので、政府や軍が人身売買をすることはありえないし、そういう証拠もありません。今まで朝日新聞が証拠と称して出したのは、軍が人身売買を禁止する通達です。

もちろん、それを無視して多くの人身売買が行われました。軍がそれを黙認したことは事実でしょう。吉原で、警察が人身売買を黙認したのと同じです。それがいいか悪いかといわれれば、悪いことにはちがいありません。しかし憲法で奴隷の所有権を認めていたアメリカ政府にいわれたくないですね。

韓国政府が追及しているのは、そういう道徳的な責任ではありません。彼らは日本政府が国家責任を認めて賠償しろといっているのです。これまで日本の裁判では、そういう主張はすべてしりぞけられており、韓国政府の主張には法的根拠がありません。それなのに朝日新聞が誤報を訂正しなかったから、人身売買と強制連行がごちゃごちゃになってしまったのです。

国の命令したことについて国が責任を負うのは当然ですが、民間がやったことについて「国が悪い」といって騒ぐのは、今でも朝日新聞のような無責任なマスコミの商売です。こういう悪い習慣を断ち切るためにも、国会が朝日新聞の誤報問題を解明すべきだと思います。