テニスの全米オープン大会でクロアチアのマリン・チリッチ選手(25)が錦織圭選手(24)を破り、4大大会初優勝した。チリッチ選手は優勝した瞬間、「自分が勝ったとはどうしても信じられなかった。まさに、奇跡だ」と興奮して語っている。
2002年のパリ大会以来初のトップ10選手以外の選手による決勝戦はあっさり決着がついた。198センチの長身チリッチ選手は強烈なサーブ(17)とストロークで錦織を圧倒し、6─3、6─3、6─3の3セット、114分余りでクロアチアに13年ぶりに4大大会の優勝をもたらし、300万ドルの優勝賞金を獲得し、世界ランキング9位とベストテン入りを果たした。
チリッチ選手は昨年5月、ドーピング検査で陽性反応を示したため、9カ月の出場停止処分を受けたが、国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議を申立て出場停止期間を4カ月に短縮された経緯がある。ウィンブルドン大会(2001年)の男子シングルで優勝した同じクロアチア人のゴラン・イワニセビッチ氏を専属コーチに招き、昨年10月、試合にカムバックしたばかりだ。
コーチのイワニセビッチ氏は「これで自分は辞任できる」と冗談をいいながら、「試合前、決勝を楽しめと言い聞かせた。彼は錦織よりリラックスしていたよ。4大大会決勝戦を20回以上経験したベテラン選手のようだった」と愛弟子を称えていたのが印象的だった。
ところで、チリッチ選手はボスニアの首都サラエボ西約50キロのメジュゴリエで生まれた。同地では1981年6月、当時15歳と16歳の少女に聖母マリアが再臨し、3歳の不具の幼児が完全に癒されるなど、数多くの奇跡が起きた。信者たちから“メジュゴリエの奇跡”と呼ばれている。1000万人以上の巡礼者がこれまで同地を訪れている。カトリック国クロアチアではチリッチ選手の優勝を「もう一つの奇跡」と呼び、国を挙げて喜んでいる。
クロアチアは昨年7月、欧州連合(EU)に加盟したが、国民経済はもうひとつ伸び悩んでいる。サッカーのワールドカップ(W杯)ではナショナル・チームは国民の期待に応えることができなかったばかりだ。そこにテニスの4大大会初優勝という奇跡が聖母マリアの再現地メジュゴリエからきた男によってもたらされたわけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年9月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。