予測するな

森本 紀行

人間の能力には限界がある。将来事象について、合理的な蓋然性についての判断は可能でも、予測はできない。このことを自覚的にわきまえて行う行為は、投資である。予測判断に基づく行為は、投機である。


予測は当たらない。予測が当たると、誰でも驚く。なぜなら、予測は当たらないことが前提だからだ。値上がりするという予測判断で投資することは、投機である。ならば、予測しない投資とは、どういうものだ。

不動産を例にとろう。不動産価格が高くなるから、賃料が高くなるのではない。逆だ。賃料が高くなるから、不動産価格が高くなるのである。合理的な投資判断の対象になるのは、賃料である。不動産価格の上昇に賭ければ、投機となる。賃料の分析から不動産価値を求め、その価値を取得すれば、投資である。

不動産の投資価値は、現在の賃料水準、管理費用、稼働率を前提としたとき、将来のネットの賃料収入の現在価値として、科学的に計測されるものである。誰も、科学的に価値測定できないものには、投資しないし、すべきでもない。価値の測定は、投資判断の第一歩であり、基本中の基本である。

損失の可能性はある。しかし、倒壊や火災というような物理的な損失には、保険による損失填補を用意しておく。損失の可能性として一番重要なものは、稼働率である。稼動率が下がって、しばらく回復の目処がないから、賃料を下げざるを得ない。そうすることで、稼働率を維持できても、賃料の総額は下がる。これが、損失である。

このような損失の可能性は、投資時において、物件の立地、大きさ、用途、テナント構成などを総合的に評価することで、許容可能なものとして認識されている。加えて、専門の運用者を使って投資するならば、その運用者が、価値の毀損を極力回避できる能力(適切なテナント政策や改装更新投資など)を有するかどうかの評価も重要である。

価値判断について、賃料の上昇を見込めば、つまり賃料を予測すれば、価値評価はいくらでも高くなってしまう。賃料の現状維持でも投資価値がある、多少の賃料低下でも価値低下は許容範囲にとどまる、そのような保守的評価のなかで、投資価値は算定されるべきである。

賃料の上昇を予測すれば、先行的な土地取得も簡単に認められてしまう。投資が土地投機へ堕落する。不動産投資で損失が生じることは、本来、極めて稀である。損失は、常に、投機への堕落が原因である。故に、予測するな。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行