今週のメルマガの前半部の紹介です。先日、なんと日経の記者がAVに出演していたとの記事を週刊文春がスッパ抜き、大きな話題となりました。それも、単体作品で10本(一説にはトータルで70本!)というのだから、それなりに有名な売れっ子女優と言っていいでしょう(文春報道時点で既に退職済み)。
もし、同じように、違法ではないけれども会社的にはあまり歓迎したくない経歴のある人間が社員になっていると判明した場合、会社はどういうアクションをとるのでしょうか。そして、幅広い経歴から垣間見える本人のキャリアデザインとは。
今回は企業と性の問題について思い切って切り込んでいきたいと思います。
AV!東大!日経!
最初、筆者は「日経記者が実は元AV女優だったことがバレて辞めさせられたらしい」という話を聞いて、よくある話と聞き流しました。実際、過去に風俗等の水商売勤務が発覚して処分対象となるケースはたまに耳にします。過去の犯罪歴なんかも同じですね。
というか、渡辺淳一先生の一連の作品を連載していたんだからそれくらい別にいいじゃんというのが正直な感想ですね。筆者も社内の知り合いに聞いたら「記者としてはそこらの男子よりよほど優秀で、コミュニケーション能力も高かった」そうなので、目くじら立てるほどのことでもないような気もします。きっと渡辺先生も草葉の陰で泣いておられるに違いありません。
ただ、実は慶応経由で東大の修士卒であるとかいった話を聞くうち、これはこれで優れたキャリアデザインの一環なのではないかと考えるようになりました。筆者がそう考えるようになった理由は以下の3点です。
1.そもそもAVは儲かる仕事ではない
ネットを通じたコンテンツの違法アップロードの被害をもっとも受けているのがAV業界だという点で、異論のある人は少ないでしょう。それくらい、アダルトコンテンツはネット上に無料でごろごろ転がっています。
結果、女優のギャラも90年代より桁一つ下がって、今では単体女優で数十万円、企画ものに複数人で出演する場合、一人数万円程度に過ぎないと言います。要するに「お金欲しさに体で稼ぐ」というAV女優像はノスタルジックな昭和のフィクションであり、そこにはまったく別の、そして多様な事情があるということです。
2.慶応SFC→東大大学院というエリート芸人養成コース
もう一つ、筆者がピンと来たのは、慶応SFCから東大大学院に学歴ロンダリングしていることです。終身雇用ベースの日本では、下手に文系大学院に行こうものなら社会不適格者のレッテルを貼られかねないリスクがあります。以前、文科省が博士課程を量産した時、何の売りがあるのかよくわからない20代後半の博士号取得者が日本中にあふれ、結果的にコンビニバイトやすきやのワンオペに落ち着いていったという経緯もあります。
まあそんな経緯を間近で見ているから、普通は文系で院なんて行きませんね。でも、東大の院だけは別です。今でも日本中から、熱意のある若者が集っていて凄い熱気です。何の熱意かって?「最終学歴を東大で上書きする」という熱意です。
学部はよその私大でも、何やってたかよくわからない文系でも、良くも悪くも東大の大学院はそれなりに評価されます。くわえて、将来は自分の名前を広く売る仕事に就こうと思っている人にとっては、正々堂々と「東大修士課程修了」と名乗れるわけですから、とても魅力的なわけです。というわけで、東大の院には、政治家とか作家の卵的な人が割といますね。
もちろん、ちゃんと真面目に勉強するためにやってきた人もいます。でも、そういう人はたいていそのままアカデミズムの世界に残るものです。民間一流企業に就職し、後述するように著作まで出しているという事実からは、恐らく最初からハクを付けることが目的だったのでしょう。実際、いくつかのメディアは本人のことを「東大院卒」と華々しく報じているわけで、彼女の破壊力は3割くらい増しになっているはずです。
3.「日経」という肩書への執着心の無さ
仮に本人の動機が安定や収入にあるのであれば、就職と同時に過去ときれいさっぱり縁を切り、メイクや髪型を一新して、栄えある日経新聞社の一員として新たな人生を歩みだしたはず。実際、お水で働いていた女子学生の99.9%はそういう風にシフトチェンジします。
でも、彼女は2013年に「AV女優の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか」というきわどいタイトルの本を出版しています。普通、完全に足を洗った過去に関係する話なんてわざわざ本に書くでしょうか?もし同僚に「あの人ってこの女優さんに似てない?」的な疑惑を抱く人がいたら、有力な物証を投げ与えるようなもんでしょう。
恐らく、本人はある段階から、いずれ著作などを通じ直接社会に情報発信するポジションに行こうと決意したはず。それがAV前か後かはわかりませんが、東大大学院や日経というキーワードは、その発信力を強めるための“飾り”でしょう。はっきりいって、恐るべきキャリアデザイン力だと思います。
前回のストーリー的な観点から言えば、本人の経歴には「慶応から社会学系の東大大学院に進学、フィールドワークも兼ねてAV出演、日経新聞記者となるも、そちらの執筆活動を優先するために独立」という見事なストーリーが出来ているのがわかりますね。
水際作戦に失敗した日経の事後処置を検証する
企業に意外に多いお水出身者
つぶしのきかないスキルを黄金の職歴に変えるテクニック
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2014年10月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。