「住民の同意」が阻むエボラ出血熱の検査

池田 信夫

エボラ出血熱の患者は、アフリカからアメリカに広がり、日本でも検疫体制が強化された。このウイルスは患者の体液を体内に入れないと感染しないので、先進国ではそれほど恐れる必要はないとされるが、今のところ完全な治療法がない。さらに問題なのは、日本ではこれを検査するバイオセーフティレベル(BSL)4の検査施設が稼働していないことだ。


BSLは感染症の危険性を示し、すでに検査施設はある。1981年に国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)ができ、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)にもBSL-4に対応する高度な安全性を備えた施設があるが、周辺住民の同意が得られないため、稼働できない。このため、国内では治癒したかどうかの判断ができないので、海外に検体を送らないといけないという。

日本学術会議は今年3月、このような状態では感染症の危機管理ができないとして、BSL-4の施設を整備するよう政府に提言した。ここでは次のように日本の危機的な状況を訴えている。

我が国では BSL-4 病原体の基礎研究はおろか、それらによる重篤感染症が国内で発生しても患者試料からのウイルス分離による確定診断を行うことが難しい状況にある。そのような状況の中で、我が国の研究者は海外の施設で BSL-4 病原体の研究を進めてきた。

しかし、2001 年の米国同時多発テロ発生以降、多くの国においては安全保障の観点から自国の研究者以外の BSL-4 施設使用は原則禁止または厳しく制限され、日本人研究者による BSL-4 病原体を対象とした海外での研究が困難になりつつある。

「住民の同意」は、検査施設の稼働の法的要件ではないが、紛争を恐れる厚労省の官僚は問題を先送りしてきた。原発の再稼動と同じだ。このように法的手続きなしに「空気」で問題を先送りしていると、そのうち取り返しのつかないことになる。住民同意や強制執行の手続きを省令などで明文化すべきだ。