「派遣社員を3年でクビにしろ」と主張する野党の倒錯

池田 信夫

労働者派遣法の改正案が、争点に乏しい国会の唯一の争点になってきた。野党は廃案を主張し、「派遣の期限を延長するな」という。今は長期的に雇用されている専門職を3年で交代させる改正案もおかしいが、「すべての派遣社員を3年でクビにしろ」と主張する野党はもっと倒錯している。


日本の正社員は、図のように一貫して減っている(社会実情データ図録)。その原因は簡単である。正社員の規制が強すぎるからだ。新卒で雇うと定年までクビにできない正社員を、企業が避けるのは当然だ。こども版でも書いたように、派遣を規制しても正社員は増えないで、パート・アルバイトが増えるだけだ。

正社員を増やすには、解雇を判例で実質的に禁止している曖昧な規制を改め、金銭などの条件つきで解雇を認める立法をするしかない。これがOECDも日本に勧告している改革である。ところが、そういう規制緩和には労働組合が反対するので、厚労省は非正社員を規制で減らそうとする。自民党もマスコミの反対を恐れて及び腰だ。

日本で非正社員が労働者の4割近くまで増えたのは、労働がITで定型化したからだ。たとえばスーパーのレジは、POSで誰でもできるようになった。このように労働が脱熟練化する流れは止まらない。特に単純労働の賃金が新興国に引き寄せられて下がる日本では、非正社員の2倍近いコストがかかる正社員を増やす理由がない。

正社員が減るもう一つの理由は、日本人はパートでもきちんと働くからだ。それだけ終身雇用のエートスが労働者の中に定着しているのだが、これを利用して長時間労働させてクビにするのが「ブラック企業」だ。これを減らすには、労働市場を流動化して、クビになっても他の企業に行けるオプションを増やすしかない。

会社に一生、面倒をみてもらう時代は終わった。雇用の質を高めるには、正社員の規制を減らして非正社員との待遇の差を是正すべきだ。それなのに労働者の17%しか代表しない労働組合の意を受け、派遣社員の規制強化を主張する野党は救いがたい。