フーリガン対サラフィストの戦い --- 長谷川 良

アゴラ

ドイツのケルン市で10月26日、約4000人のフーリガンがイスラム過激主義者サラフィスト・グループに抗議するデモを行った。フーリガンは警備する警察隊に向かって石やビンを投げるなど、一部暴動化した。警察当局の発表では、44人の警察官がケガをし、20人以上のデモ参加者が逮捕された。

フーリガンたちは今月初め、マンハイムやエッセンで反サラフィストデモを行ったが、いずれも小規模に終わった。ケルンのデモでは、フェイスブックなどSNS(ソーシャルネットワーク)を通じてデモの参加を呼び掛けていた。彼らは「次回のデモはベルリンだ」と表明しているという。


フーリガンのデモの背後には、国内でサラフィストが増加し、国民の間で警戒心が高まってきていることがある。ちなみに、ハンス・ゲオルグ・マーセン独連邦憲法擁護庁局長は、「国内に約6300人のサラフィストがいるが、年内にはその数は7000人を超えるだろう」と推定している。独連邦憲法保護報告書によれば、2012年は4500人、昨年は5500人だった。

マーセン局長は「懸念すべき点は多くの若者たちがサラフィストに惹かれてきていることだ。その理由として、サラフィストは明確な目的を有し、何をすべきか、何が黒か白かなどにはっきりと答えることができる。だから、人生の目標が明確ではない多くの青年たちはサラフィストの生き方に魅力を感じるのだろう」と分析している。

サラフィストの思想は初期イスラム教への回帰思想であり、彼らは聖典コーランを文字通りそのまま信じ、その解釈を拒否し、欧米社会との統合を拒否する。国際テロ組織アルカイダに近く、イスラム教内では超保守派のワッハープ派の思想潮流をいう。

一方、フーリガンのメンバーもサッカーファンというより、暴れ、破壊することで鬱憤を晴らす若者たちの集まりだ。それだけに、フーリガンとサラフィストが正面衝突した場合、多くの犠牲が出ると懸念されている。実際、ドイツのボンで2012年5月5日、サラフィストが警察隊と衝突し、ナイフと投石で少なくとも29人の警察隊員に負傷するという事件が発生した。その衝突の直接の契機は極右政党「プロNRW」がイスラム教祖ムハンマドの戯画を掲げてデモ集会を行ったことだ。同衝突で109人が拘束されている。

ちなみに、独週刊誌シュピーゲル(電子版)によると、警察当局は「フーリガンと極右グループが密かに連帯している」と報じている。実際、ケルンのデモには多数の極右活動家たちの姿が目撃されたという証言がある。

ドイツだけではない。隣国オーストリアでもサラフィストが増加してきた。彼らは路上でイスラム教の聖典コラーンを無料配布などし、リクルートしている。今年に入り、15歳と16歳の2人のイスラム教徒のギムナジウムの少女が突然、シリアに行き、反体制派活動に関わっているという情報が流れ、ウィーンの学校関係者ばかりかオーストリア社会全般に大きなショックを与えたばかりだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。