GPIFの運用見直しと日銀の追加緩和

池尾 和人

私がいつも使っている、できる限り単純化して日本の金融構造を表したバランスシート図を用いて、いずれも10月31日に発表されたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用見直しと日本銀行の追加金融緩和が実施されるとどのような効果が生じることになるかを確認しておこう。この目的のために、いつもは国債は日銀と民間銀行によって保有されているとしているのを、国債は日銀、民間銀行とGPIFの三者で保有されている(それぞれの保有分を国債Ⅰ、国債Ⅱ、国債Ⅲとする)と変更し、他の保有(例えば、個人による直接保有)は無視する。

なお、このバランスシート図について解説が必要な場合には、拙著『連続講義・デフレと経済政策』(Kindle版も発売中)の第3講「ゼロ金利制約と金融政策」を参照されたい。


まず、第1図をご覧いただきたい。GPIFの運用見直しに伴って、GPIFと民間銀行の間で取引が生じることになる。すなわち、GPIFは、日銀とは直接取引関係にないので、これまで保有していた国債の一部(約30兆円ほどとされる)を民間銀行に売却する。民間銀行は購入代金をGPIFの預金口座に振り込むことになるので、民間銀行のバランスシートは両建て(保有国債増と預金増)で膨らむことになる。それに伴って、準備のうちのごく一部が超過準備から必要準備に変わることになる。

第1図

この瞬間において、GPIFのバランスシートの資産側では国債保有が減少し、預金保有が増加することになる。しかし、GPIFにとって預金保有は最終目的ではないので、(図には書かれていない)他の投資家等から株式等(国内株式、海外株式、海外債券)を買い増すことになる。すると、GPIFが保有していた預金は、株式等を売却した他の投資家等の保有に振り替わることになる。預金保有者の名義は変わるが、民間銀行の預金残高はそのまま維持されることになる。

それで、次の第2図の上半分の状態になる。ここからは、民間銀行と日銀(中央銀行)の間の取引になり、日銀が民間銀行から国債をさらに30兆円ほど買い上げると、民間銀行の国債保有額は元の水準に減少し、その分と同じだけ準備保有額が増加することになる。日銀のバランスシートは両建てで増加し、ベースマネーの供給量は拡大することになる。

第2図

最終的な姿において、民間銀行の預金増は残るので、その分だけマネーストックも増加していることになる。この点が、単なる量的緩和と異なるところである。すなわち、マネーストックが国債購入額と同じだけ増えることになる。量的緩和をしても、それだけでは(民間銀行が貸し出しを増やそうとしない限り)マネーストックは増加しないけれども、GPIFの運用見直しと組み合わされることによってマネーストックを増やすことになるという意味での緩和効果が生じることになる。

なお、株価にいかなる影響が生じるかは、一概には言えない。単純に需給で価格が決まると考えるならば、GPIFが買い増すことによって株価は上昇するとみられる。しかし、株価は企業価値(ファンダメンタル価値)で決まるとすれば、GPIFの買い増しによって株式の市場価格がそのファンダメンタル価値を上回るならば、裁定を目的とした売り(空売り)が生じることになって、株価はそのファンダメンタル価値に収斂すると考えられる。すなわち、日本の株式市場がどの程度まで情報効率的な市場であるかによって、結論は変わってくるのであり、逆にいうと、今後の株価の推移でその程度が判明することになる。

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池尾 和人@kazikeo