個人商店主にとって青色申告とは一年に一度の面倒くさい作業。経理の「け」の字もよくわからないけど商売だけは毎日一生懸命やってきたというお父様、お母様にとって勘定科目なんていっても分からないし、交通費はパスモにスイカで個人の分も仕事の分もごちゃごちゃ。レシートは印字がかすれて皺くちゃになったのを広げて「はて、何に使ったかね」というのがオチ、という方もかなりいらっしゃるのではないでしょうか?
それならまだしも売上だって八百屋のおじさんはいまだにザルから「はい、100万円のおつり!」とやっているわけですからどんぶり勘定そのものであります。いや、そんなおじさんだけではありません。床屋、美容室、銭湯、カラオケボックスでレシートを貰った人はいるでしょうか? 飲み屋に行って「お勘定!」といえば、小さな紙に合計金額だけが書かれた紙を渡され、何の疑いもなく、支払い続けたのが日本の飲み方、払い方であります。
バンクーバーでレストランに入り、周りのテーブルを見ているとお会計になるとじっくり会計の明細をチェックし、時折、サーバーさんに質問している姿を見かけます。自分の頼んだものがきちんと記録されているか、単価はあっているか、確認するのです。私も感覚的にいくらぐらい注文したか分かっていますから極たまに「あれ?」と思う請求を貰うと確認しています。案外、「すみません、隣のテーブルのでした」なんていう答えが返ってくるものです。
日本で少なくとも最近行った5、6軒の飲み屋のうち、いわゆるチェーンなどではない個人経営的な店では100%明細はありませんでした。つまり、合っているのかどうかも分からないのです。ある時は「今日は5000円でいいですよ」と言われましたが結局、経理などというものは存在せず、事業としての収支もよく把握していないけど最後、いくら残ったからこれは生活費、といった感覚なのだろうと思います。
2016年、マイナンバー制度が発足した時点でこのあたりが突然、捕捉されることはないでしょう。それは収入源を特定する法定調書が個人事業主の場合難しいためで、さらに言えば個人の小さな税の取りこぼしより大口の案件に集中する方が効率が良いからです。ただ、この制度は今まで手付かずだった領域に入り込むことになり、思わぬ課税にあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる可能性がないとは言えません。
例えば国税は外国との資金のやり取りについてはかなり細かく把握しており、100万円を超える海外との送金は個人を含め、全部スクリーニングされています。よってそれが度重なればほぼ間違いなく国税からの手紙がやってくると考えて良いのです。
国税は2014年の海外資産開示、2015年の相続税、2016年のマイナンバーと三年間でキュッと個人や事業主の懐に手を伸ばしてきたと言えそうです。それは時として世代交代を促進することも考えられます。「オヤジの時代から息子の時代へ」ということでしょうか? とすれば息子は経理をしっかり理解する必要があります。
私は常々管理職や起業家になるなら、経理習得はマストと言っています。確かにレシートを紙に貼って勘定科目に振り分けて、記録するというのは慣れていなければ第一歩目のハードルは高いものです。しかし、最近は便利な経理ソフトができていますので貸借対照表で左右がバランスしないということはありえなくなりました(昔は手で計算していましたからバランスせず、そんな馬鹿な、と必死に原因を追究したりしたものです)。
しかし、本当に必要なのは出来上がった試算表なり、仮の決算書をみて、決算前なら事業の決算方針はどうすべきか、決算後なら今後、どうしたら良いのかを考えるのが経営者に本来求められる部分であります。それは節税といった税務対策だけではなく、事業が儲かっているのか、健全なのか、将来性はあるのかを判断するのに極めて重要なあなただけの資料となるのです。
つまり、「あなたにも税務署が迫ってくる時代」となると同時に多くの人に経理や税務を通じて賢い事業者になれと背中を押されているともいえるのではないでしょうか? 税務署は嫌ですが、勧善懲悪という意味では日本人のメンタリティには合っているし、事業者の経営に対するレベルアップという意味ではポジティブなのかな、と思っています。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。