なぜ円安で不景気になるの?

池田 信夫

来年10月に消費税率を8%から10%に上げることについて、「増税したら景気が悪くなる」という人が騒ぎ始めています。しかし増税しなかったら、景気はよくなるんでしょうか? 今年になって景気が悪くなったのは増税のせいなんでしょうか?


この不景気の最大の原因は、1ドル=80円から115円まで4割以上も上がったドル高(円安)です。日銀の黒田総裁は「円安にしたら景気はよくなるはずだ」と思って追加緩和しましたが、残念ながらそうはならないのです。

この原因はちょっとむずかしいのですが、交易条件という言葉を理解する必要があります。これは輸出物価指数/輸入物価指数で、100円の輸出品でいくらの輸入品が買えるのかという指数です。たとえば交易条件が半分になると、自動車などの輸出品の価値が石油などの輸入品の半分になるので「交易条件が悪化する」といいます。

価格に応じて需要と供給が自由に動くときは、円が安く(ドルが高く)なると輸入品の価格が上がって輸入量が減りますが、日本の場合、最大の輸入品はエネルギーです。日本のエネルギー自給率は4%ぐらいなので、ドル高で価格が上がっても輸入を減らすわけにはいきません。

特に2011年の東日本大震災のあと、原発を全部止めてLNG(液化天然ガス)の輸入を増やしたので、LNGの価格が大きく上がり、輸入額が年間3兆円以上も増えました。エネルギー価格が経済に占める比重は大きいので、これによって図のように輸入物価が30%ぐらい上がり、年率1%ぐらいのインフレになりました。


おかげで交易条件は、ここ5年で20%ぐらい悪化しました。特に震災のあと大きく下がり、そのあと少し回復したものの、2013年からの円安でまた下がりました。

この原因は、図でもわかるように、輸入物価が大きく上がったことです。この期間にドル建ての原油価格は15%ぐらいしか上がっていないのですが、円安になったため、円でみた輸入価格が30%ぐらい上がり、企業のエネルギーコストが上がったわけです。

よい子のみなさんにはむずかしいと思いますが、要するに円安で日本人は貧しくなったのです。2010年に買えた石油の7割しか、今は買えなくなりました。今年に入って原油価格が少し下がったので交易条件は改善しましたが、黒田さんが追加緩和したので、ドル高になってもとに戻ってしまいました。

円安には(ドル建ての)輸出価格を下げて輸出を増やす効果もありますが、競争力のある製造業は海外に生産拠点を移してしまったので、輸出価格が下がっても、売るものがありません。おかげで輸入が激増して輸出がほとんど増えなかったため、日本の貿易赤字は増えてしまいました。

黒田さんの頭の中には、日本が輸出でかせいでいた時代のイメージがまだ残っているのだと思いますが、もう日本は「貿易立国」ではなく、輸入が輸出より多い国です。こういう国では、円が安くなると輸入価格が上がるマイナスのほうが輸出価格が下がるプラスより大きいのです。それが円安で不景気になった理由です。