酒を飲まなくなった韓国外交官 --- 長谷川 良

アゴラ

産経新聞電子版に「アイルランド人より韓国人のほうが酒飲み」という小コラムが掲載されていた。アイルランド人女性が韓国で英語教師の職に募集したところ、「アイルランド人は酒飲みの国民性だ」という理由から雇用採用を断れたという話だが、実際は韓国人のほうがアイルランド人より酒を飲む国民というのが落ちだ。


当方はこれまで多数の韓国人外交官と付き合ってきたが、韓国人は酒飲みだ、という話は10年前までなら当たっていると思うが、最近付き合いしている韓国人外交官は昼食時に酒を飲まない人が結構増えてきている。

K氏が7、8年前、ウィーンの韓国駐在外交官となった時、彼は良く飲んだ。昼食時にビールを水のことく飲む彼をみて、当方は心配になって「車でしょう」と聞くと、Kさんはアルコールを一切飲まない当方を軽蔑するような薄笑いを浮かべ、「問題はない」という。実際、彼は何杯ビールを飲んでも顔には一切出ない。へっちゃらなのだ。彼にはビールは水に過ぎないなのだ。

演劇プロデューサーだった当方の義兄は一杯ビールを飲むなり顔を真っ赤にしていたが、Kさんは義兄とは全くの逆だ。「交通事故など起こしたことはない」というから、本当にアルコールには強いわけだ。

そのKさんが昨年、ウィーンに再任した。久しぶりに昼食を一緒にした時だ。ビールを注文しないのだ。当方が「飲まないのですか」と誘いかけると、「昼食時にはアルコールは飲まないことにしている」という。酒でなにか不祥事があったのだろうか。それとも健康上の判断からか。Kさんは昼食にビールを飲まなくなった理由を説明しなかった。ただ、少々淋しそうな顔を見せただけだ。

しかし、夕食を共にした時、Kさんはビールを注文し、うまそうに飲んでいたから、アルコール断ちではないらしい。正直にいうと、酒を飲まないKさんは当方には少々物足りないというか、面白味がなくなった。換言すれば、口が堅くなり、Kさんの口から面白い話が飛び出さなくなったのだ。何を聞いても「そうだね」と相槌を打つだけだ。

Kさんは昇進していた。幹部外交官の一人だ。ジャーナリストに酒を飲みながらついついコンフィデンシャルンの情報を漏らしてしまったならば、大変だ。そんな配慮も働いているかもしれない。ひょっとしたら、将来を見通した愛妻からの助言があったのかもしれない。

Kさんだけではない。知人の韓国外交官には10年前までは酒飲みが多かった。酒を飲まない外交官は一流外交官になれない、といった不文律があるのではないかと思えるほど酒飲みが多かった。飲み過ぎで肝臓をやられ、亡くなった40代の韓国外交官もいたほどだ。しかし、Kさんのように、最近は昼食時の接待時に飲まないか、飲む量を抑える外交官が多くなったのだ。

上からの指示か、本人たちの自覚か、第3者では分からない。いずれにしても、酒を急に飲み始めた人にはそれなりの理由があるだろう。同じように、急に飲まなくなった人にもそれなりの訳があるはずだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。