国内にはもう景気を上向かせるポテンシャルはないのか --- 岡本 裕明

アゴラ

衝撃のGDPは経済に興味があまりない人にも日本経済回復が計算通りいってないことを実感させる結果となりました。海外でも大きく報じられ、私のところには海外からもコメントが寄せられています。

さて、一日たって頭の中を整理してみたのですが、非常に大雑把に捉えると安倍首相就任→黒田日銀総裁バズーカ砲第一弾→株価回復を援護→アベノミクスの矢を次々発表の流れで作り上げたのは雰囲気改善、株価上昇に伴う高齢者が持つ塩漬け株の流動化で高額商品などの消費の改善が思い出されるところかと思います。


不動産の世界では今年4月の消費税増税に対して2013年9月末までの請負契約締結を旧消費税の要件としたことも不動産業界、建設業界に期待を膨らませる結果となりました。事実、当時、建設業界で人材不足は深刻で工事費増により発注側の事業取り止めも相次いだのです。

これは消費税増税後も景気が維持され、不動産価格は上昇するという期待が必要以上に膨らんだこともあるかと思います。マスコミが煽ったこともあるでしょう。一般企業でも消費税増税に向けてその腰折れを防ぐため新製品の販売を4月以降に先送りし、消費税による価格上昇のイメージ払しょくを狙ったところもありました。つまり、出来る限りの対策は打っていたはずです。

では、なぜ、うまくワークしていないのか、結局は円安による物価上昇が賃金上昇率を上回ってしまったこと、期待先行で2年近く待った結果、恩恵を受けた人と受けない人の「格差」が生じたという事でしょうか?

不動産業界。値上がり期待で買い急いだ方も多かったと思いますが、10月の契約率は5年8か月ぶりの63.3%という低水準。販売戸数は9か月連続で前年実績を下回っていますが、統計上は昨年同期が良すぎたため、今年いっぱいは酷い数字が並ぶことになります。マンションの平均価格は1992年の5066万円にほぼ並ぶ5054万円となっています。

今、政府は景気対策を検討していますが、その中に住宅ローンの補助も一案として出ているようです。売れない住宅を売るための手段でありますが、今の1%を切るような住宅ローンにどれだけ補助を出しても意味はありません。買える層と買えない層が分かれていることに着眼すれば一目瞭然でしょう。

まず世の中の主流となった非正規社員。この方々に銀行はなかなかローンをつけてくれません。では、中古住宅なら、と思われるでしょうが、古い家やマンションは価格は安いものの住宅価値も減価しています。土地の担保価値はあったとしても上物部分は価値がないから貸せないとなれば購入資金は十分に調達できそうにもありません。

それ以上に貯蓄そのものの低さを挙げておきましょう。平成25年のデータですが、住宅購入を最も真剣に検討する30代は収入月44万円に対して貯蓄約7万円となっています。つまり貯めても年間84万円。10年続けてもローンの頭金にようやく届くという感じでしょう。これでどうやって住宅が売れるのでしょうか? つまり、金利の問題ではないのです。

では諸外国に行くとなぜ不動産価格が高いのでしょうか? 理由は比較的シンプルです。住宅部分の減価が極めて少なく、住宅の価値が下がりにくいところに人口が一定数増え続けることによる住宅市場の大きな回転が効いているのです。ところが日本は一度住めばまず動かない、価値も減価する、人口も減っているから場所によっては買い手もいないとなれば不動産が日本全体に活性化する理由はないのであります。

REITを含め、日本の不動産の底上げを支えているのは外国からのマネーです。利回りというゲームは家賃と不動産価格のバランスであります。これが東京は世界主要都市の中では圧倒的に魅力的であったからなのです。今はよいのですが、不動産価格が一定まで上がり、この利回りが目標下限に達するとパタッとマネーの流入は止まるはずです。そしてそこからはババ抜きゲームとなります。

つまり、足の早い外国主体の投資マネーに翻弄されているというのが実態です。構造的に日本の不動産がバンクーバーやサンフランシスコやハワイの様に上がる絶対条件は人口の流入以外に妙案はありません。

安倍政権が作った景気対策は改善への足がかりにはなっています。外国からもお金が入ってきています。しかし、日本全体を豊かにしているかといえばそこまでの実感はないはずです。まさに昨日のGDPの数字とはそのギャップが出た、という事ではないでしょうか? マネーを政権の勢いとしたことが安倍政権の今のところの特徴だと考えています。

今日は不動産を中心に衝撃のGDPを検証してみましたがチャンスがあれば雇用の断面も考えていきたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。