「消費」は増えるのか(その2) --- 岡本 裕明

アゴラ

非常にシンプルな設問です。「消費は増えるのか」。しかし、この質問に100%の答えはなく、答えも千差万別かもしれません。

日銀が進める量的金融緩和は銀行がお金を民間に貸しやすくして経済を回すのがその発想の根底です。しかし、借り手が少ない、借り手の信用力が不足している中で金融庁が厳しく管理する良質な借り手の発掘は今やビットコインの発掘のような難しさすら漂います。


安倍首相が努力して企業に賃上げの背中を押して、ようやく2%という平均的数字が出てきても大企業と中小企業の格差は広がり、正規と非正規の差も広がります。被雇用者にしてみれば2%の賃上げに対して3%の消費税増税では間尺に合いません。

では消費側に立ってみましょう。我々が手にする洋服でも日用雑貨でも家電製品でもメードインジャパンはどんどん少なくなってきています。モノづくり日本において異質の輝きをもったジャパンブランドはありますが日本全体の消費を下支えするボリュームにはなりません。ではなぜ、外国製品が日本市場を席巻したのでしょうか?

消費文明が成熟化した中で価格競争に敗れた、の一言だと思います。アメリカが全く同じ道を歩みました。アメリカの製造業は厳しく淘汰されましたが、その後、サービス業、そして金融業と新たな分野に生きる道を見出した点において新たなチャレンジをしました。

日本では「メードインジャパン」「モノづくり日本」に固執し過ぎた結果、他分野へのチャレンジをないがしろにしたことは否定できません。誤解を避けるために書きますが、私は日本のモノづくりは素晴らしいと思っていますのでそれを否定しているわけではなく、日本にモノづくりがあれば生きていけるという風潮があったことが私は踏み間違えたと思っているのです。それは10数年間、日経ビジネスを一週も欠かさず広告以外は全ページ読破し続けている中で私なりの流れの理解はできているつもりです。

消費者は70-80年代の大量消費をもはや心地よく思っていません。環境問題がそれを後押ししています。ここバンクーバーも自転車専用レーンが伸び続け、自転車専用信号もあります。つまり、自動車、歩行者と同等の権利と立場を持ちつつあるのです。私は駐車場のビジネスをしていますが、年々需要は減っています。理由は車に乗れば石油を使い、環境を悪化させ、更に駐車場に車を停めれば21%という駐車場税(本質的には環境税です)を取られるのです。

では人々は何にお金を使うのでしょう? 教育、趣味、社会貢献でしょうか? 私もサービスに対する出費がほとんどですし、頑張っている若い人に奢るといったバトンタッチの出費が目立ちます。旅行をする人もそのスタイルを変えてきています。観光旅行のメッカから自分の目的に合わせた旅行で「そんなところに?」という方も増えています。種子島からのロケット打ち上げの際には種子島はパンクするほどの人が集まりました。コンサートには熱狂的ファンが集まり、大衆的人気のあるタレントも以前ほど簡単に廃れなくなりました。

国内の消費を増やすことにおいて政府はモノの消費を増やすことを企てているようにみえますが、サービス消費にもっとシフトすべきだと思っています。時間にゆとりのある高齢者、一人引きこもりがちな方々を外に出し、新たなコミュニティを作り、付随消費を作っていくこともあるでしょう。いわゆる喜びを伴う出費を政府は補助できるでしょうか? あるいは突然のベビーシッターをSNSを応用して1時間500円で顔見知りに預ける仕組みも話題になっています。この会社はお客からはお金を取らず、企業などからのサポートで成り立っているそうです。素晴らしいと思います。

若い人は自分への出費、それも趣味、スポーツなど自分の世界を作っていくでしょう。その中にはハードに対する需要もありますが、ソフトあってのハードであるという現実を考えれば今や、ハードが主役にはならないというのが私の考えです。

ではこのままでは日本は立ち行かなくなるではないか、と指摘を受けそうです。日本には素晴らしい商品がたくさんあります。ただ、そのビジネスの芽を海外向けに十分にリアレンジできていないように見えます。それは日本人がこだわり過ぎることに理由があるかもしれません。機能としてのこだわりがマーケティングの弊害になっていることは往々にしてありえるでしょう。

私は海外向けマーケティングをもっと深堀し、日本の商品を売るアイディアは必要だと思います。例えばウォッシュレット。あれが売れない筈はないのですが、普及しない一つの理由にトイレに電源がないことでエキストラの電源を作る工賃がウォシュレットと同じぐらいの価格になるのが問題だと思っています。(こちらの工賃はバカ高いのです。)ならばウォッシュレットの販売会社が抱き合わせでサービスしたら良いでしょう。これもマーケティングだと思います。

毎年1000万人以上の外国人が日本に来て日本を「不思議の国、もう一つのガラパゴス」としてみて帰るのか、自分の国でもあればいいな、と思わせるのかは大きな違いです。円安のニッポンに今、そのチャンスは到来していると思います。

「消費」は増えるのか、二回にわたって書かせていただきました。増やすチャンスは大いにあるけれど今まで来た道とは違うのかもしれません。もう一度、原点に立ち返ってみてもよいでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年12月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。