不動産の仕事にほぼ30年ぐらい携わり、日本と北米の両方から見てきた者として提言したいことがあります。それは日本は超高層マンションの建築を規制すべきである、という事であります。
不動産の歴史をざっと見ると80年代のバブルまでは日本は島国で土地は狭いから土地の価値は高い、だから戸建に住めず、マンションであきらめる、という構図でした。つまり、80年代ごろにマンションを買った人たちは土地価格高騰でやむを得ず、マンション購入になったわけです。私も初めて買ったのは87年頃でした。あの頃は人口問題はなく、景気は絶好調、不動産価格はずっと上がる、と思われており、マンション業者も作れば売れる時代だったのです。
ところが90年代に入り、同じ不動産価格の問題でも購入者の収入が伸びず、やむを得ずマンションに住むというスタイルに変化しています。バブルの頃は収入の伸び以上に不動産価格が上昇した点において若干ニュアンスが違うのです。その頃から個の時代となり、家族が揃って住むことから子供たちが駅に近い便利なマンションに住むことがライフスタイルの一環として取り込まれていきます。
更に2000年代に入ると超高層マンションが各地に建築されるようになり、見晴らしの良さ、建築技術の向上、許認可が取りやすくなったこともあり、今ではごく当たり前に建築されています。
ところが、これが不動産価格が低迷した原因の一つとなっていることに気がついている人は案外少ないかもしれません。もともと島国日本で有効利用できる土地が少なく、不動産価値が高いからマンションに住むというストーリーでした。が、無限に増える容積率があれば有効利用できる空間も無限に増え、土地の価値は希薄化するのはごく当たり前なのであります。おまけにマンション世代の30代、40代の人口は団塊ジュニアですからそのピークを過ぎると一気に購買力が落ちてしまいます。
ここに日本の不動産価値の長期的な不安感があります。
ところでカナダで長年不動産開発の事業をしていてペントハウス(最上層)を求めるお客様の傾向は割とはっきりしています。「人の上に立つ」「自分の上はいない」という発想です。つまり、海外では高層住宅にはこのヒエラルキー的な発想が上層階には必ず残っています。その点、日本はなぜか、一番価値のあるペントハウスにフィットネスとかバーとか、憩いの場といったアメニティを設けることがよくあります。これは人の上にひとを作らずの発想があるのかもしれません。
このところ、相続税対策、あるいはマイナンバー制度導入が予定されていることもあり、住宅地の不動産が動いています。勿論、価格も若干上がっていることが背中を押していることもあるのでしょう。つまり、不動産流動化が進みそうな気配が濃厚になってきたという事です。
ならば地震大国でマンション建て替え問題を将来抱える超高層マンションより戸建や低層住宅の方が理に適っています。また、心理学的に居住地が高層階に行けばいくほど加速度的に外に出なくなるという統計があります。それはエレベーターでわずか十数秒の違いが乗数的に心理に影響し、子供の教育にもよくないとされています。
そして、高層マンション規制の最大の効果は日本の不動産価値が上昇しやすくなるという事です。投資したものに対して価格が下がれば売りませんが、上がれば売りたい人はたくさん出てきます。今、都内の住宅地は高齢者が多く所有しています。空き家で放置されている住宅は日本全国で820万戸もあり、その対策に悩まされています。それに対し、各市町村から出ている対策はどれも小手先で本質的な変化は望めません。不動産価格が上がり、売却しやすい環境を作れば抜本対策になるはずです。
そのためにはむやみやたらな超高層マンション建築に規制をかけ、日本古来の低層住宅へのシフトを進めていくべきです。私の実家の3階の屋上からは秩父の山々がきれいに見えます。昔は羽田空港に離発着する飛行機も見えました。富士山が見える家も多いでしょう。美しい大地を活性化するには何が何でも近代的な高層ビルでなくてはいけないと考えるのなら日本のデベロッパーは金儲け主義でセンスに欠けると言わてしまうかもしれません。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年12月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。