どこへいく、日本の高齢者対策 --- 杉林 痒

アゴラ

どうも計算が合わないような気がする。

介護保険からの給付は、要介護5だと月約36万円が上限である。本人負担は3万6千円だが、高齢者が年金から出すのには重い負担だ。

これを含めた給付をするために、保険料と税金で約10兆円の負担をしている。高齢者は、医療保険と合わせて年金から天引きで払っており、可処分所得は減っている。これから介護・医療の保険料が上がるので可処分所得はさらに減っていく。


医療費の自己負担は、かつて高齢者は無料だった時代があるが、1割、2割と増えてきた。介護保険もいまのままいくと、いずれ2割負担になるだろう。そうなると、要介護5の本人負担は7万2千円にもなって、国民年金の6万4千円を超えてしまう。

すでに、医療費同様に、高額介護費支給制度がある。支給の条件や金額は自治体によって違うが、月に4万円弱としているところが多いようだ。医療も慢性的な病気はあるので、単純には言えないが、介護度は、重くなったら、悪くなることはあってもよくなることは少ないだろう。すると、高額介護費の制度は、一度使い始めると、比較的長期にわたって使い続けることが多くなるのだろう。

要するに、介護度が上がって使う量が増えても高額介護度の制度で自己負担が頭打ちになるので、利用者は介護度が上がることに対する経済的な抵抗が少なくなるのではないだろうか。

その中で高齢化が進んでいく。2014年の高齢化率は26%だが、2020年には29%、2024年には30%を突破する。2025年問題と言われるが、その時の高齢化率は30.4%でしかない。国立社会保障・人口問題研究所によると、2060年には40%に達するのだ。

まだ46年も先の話なのでどうなるかわからない面はあるが、いまいる人がいまの調子で生き残り続けることを前提としているものなので、生き残っている高齢者の数はそれほどは外れていないだろう。むしろ、増える可能性さえ残っている。そして、今年生まれた子供は46歳で、現役世代の中核的な立場にいることになる。その人たちが次世代をどれだけ生み、育てているだろうか。

話をもとに戻すと、我々は、少なくなる現役世代で介護、医療、年金を支えなくてはならない。そうなると、保険料は上がる。給付を下げようにも、医療はいまでも医師、看護師をはじめとして人手不足が深刻だ。介護職員はワーキングプアなので、待遇を改善することがあっても下げることはできない。年金も、いまの調子で減っていくと、高齢者の生活保護を増やすだけだろう。それは、保険料から税金に負担が変わるだけの話でしかない。

おそらく、厚生年金や共済年金の受給者の中でも平均を超えてもらっている人の年金は大きく減らさないとやっていけなくなる。イギリスのように、公的年金は、報酬比例部分をなくして、基礎年金だけにしてしまうという選択肢も考えられるだろう。そして税金をかなり増やして介護や医療にあてなければやっていけないことになる。その時に医療・介護を「成長産業」などともてはやすことができるだろうか。

考えるだけでも気持ちが滅入る話だが、総合的に、現実を踏まえた計算をしてもらわないと対策を打つことさえできない。多くの人が納得できる試算を前提にして、そこから逃げずに対策を打つ必要があるだろう。

杉林 痒
ジャーナリスト


編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年12月9日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。