だめな会社の崩壊の記録 - 『朝日新聞 日本型組織の崩壊』

池田 信夫
朝日新聞記者有志
文藝春秋
★★★☆☆



朝日新聞の大誤報問題で、経営陣は撤回も謝罪もしないで「重く受け止める」の繰り返しで幕引きを図っているが、植村隆元記者が訴訟を起こしたりして、騒ぎは収まらない。本書はこうした朝日の実態を「有志」が暴露したものだ。

朝日は右派メディアがいうような「反日」や「売国奴」ではない。もう現場にはそういうイデオロギーは希薄で、昔から受け継がれている「リベラルな空気」に適応して、記事に「角度をつけて」出世しようとするサラリーマンの集団なのだ。

意外なのは「社論」がはっきりしていないという話だ。読売の場合は、よくも悪くも渡辺恒雄主筆が社論を決めているので、記事につける「角度」が最初から決まっているが、朝日は「リベラル」なので、決める人がいない。本多勝一や松井やよりのような極左がスターになると、幹部でも止められない。

他方で組織は官僚的で前例主義が強く、いったん決めた路線を変えられない。政治部vs社会部とか東京本社vs大阪本社などのタコツボ構造が強く、派閥抗争がひどい。気に入らない人物には人事で報復するので、ポストへの執着が強い。敵を蹴落とすために、役員会の情報を週刊誌などに漏洩する。

その出世競争の道具に「社論」が利用される。90年代以降は現場には左翼はいなくなったが、幹部に左翼が残っているので、左寄りの記事を書かないと出世できない。慰安婦スキャンダルを隠蔽しようとする社会部(左派)と、彼らを切ろうとする政治部(右派)が、これを派閥抗争に利用して大失敗をもたらしたのだ。

本書の実質的な著者は、朝日を懲戒解雇された辰濃哲郎元記者(とその後輩の現役記者)である。なぜか途中から「私は…」と主語が変わり、記述が混乱しているが、1992年1月の大誤報の責任者は自分だと認め、謝罪している。

彼は「朝日のように情報漏洩がひどいのは、だめになった会社の症状だ」と指摘しているが、本書もその一例だ。記者がその内情を匿名で暴露する本書は、「日本型組織」の崩壊の記録である。