ギリシャ総選挙が1月25日に実施され、急進左派連合Syrizaが歴史的な大勝を収めました。内務省が明らかにした開票率60%での結果は300議席中、Syrizaが149議席を獲得しています。
40歳のSyriza党首、アレクシス・ツィプラス氏は総選挙の結果を受け「Syrizaの勝利はギリシャ国民の勝利」と高々と宣言。「ギリシャ国民がストーリーを描き、新たなページをめくった」とオバマ米大統領の一般教書演説のように切り出した上で「救済合意は終了した」、「トロイカ時代は幕を閉じた」、「忌まわしい財政緊縮のサイクルはピリオドを打った」と意気揚々と述べています。また「Syriza政権は債務をめぐり交渉をする用意がある」と発言していました。大方の予想通り、債務再編を要求すること必至です。
開票率85%時点では、得票率は以下の通り。
(出所:MineforNothing/Twitter)
Syrizaが躍進した理由が分かるツイッター。
(出所:Dominic Sherry Adams/Twitter)
ギリシャ政府の債務に関するおさらいをすると、政府債務残高は3170億ユーロとされ国内総生産(GDP)比で175%。こちらによると、格付けはムーディーズでCaa1とジャンク級、S&Pをはじめフィッチ、DBRSはBとなっています。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は早速、総選挙を受けてツィプラス党首が掲げる債務削減の必要性に噛み付きました。ギリシャ救済の道筋を振り返ると、2010年5月開催のユーロ圏財務相でギリシャは第一次支援を獲得。ユーロ加盟国と2カ国間での融資800億ドル、国際通貨基金から融資300億ユーロ、3年間で合計1100億ユーロに及びます。景気後退に絡む歳入減や長期債発行による資金調達が困難と判明した結果、2012年3月には4年間で1300億ユーロが承認されました。
ブリュッセルに拠点を置くシンクタンク、ブリューゲルによると返済期限は2026年(グレース・ピリオドすなわち利払い・延滞など猶予期間は最大2019年まで、2020年から段階的に返済)だったところ、2041年まで延長されているんですね。しかも、金利は最初の3年間で3ヵ月物欧州銀行間貸出金利(EURIBOR)に上乗せ300bpのところ2011年に150bp、2012年11月には50bpまで削減されていたのです。
さらに欧州金融安定ファシリティー(EFSF)融資の金利はEFSFの貸出金利平均プラス1%ポイントで、返済期限は30年。2012年にギリシャは10年ものグレース・ピリオドを勝ち取っています。
一連の措置を通じ、FT紙いわくギリシャの平均償還期限は16.5年となりドイツやイタリアの2倍に相当するといいます。またブリューゲルのゾルト・ダルバス氏が試算したところ、ギリシャの名目金利支払い額は2014年にGDP比4.3%でポルトガルやイタリアの水準を下回っているんです。
英国のキャメロン首相も、ギリシャ総選挙結果にけん制を放つ。
(出所:David Cameron/Twitter/The Telegraph)
ギリシャ総選挙を経てSyrizaが勝利宣言するタイミングでこうした記事が出てきたということは、ECBに反対したドイツ勢、及び腰だったオランダ、オーストリア、エストニアなどユーロ圏諸国の対応が想像できます。ユーロペッグを撤廃したスイス国立銀行(SNB)は、ギリシャ総選挙後の混乱を見据えたユーロ安にも配慮したのかもしれません。ゴールドマン・サックスはギリシャ総選挙の大勢が判明する以前に、ユーロ・スイスフラン(CHF)の12ヵ月先見通しを従来の1.28CHFから0.95CHFと大幅にユーロ安・CHF高に修正していましたし。
ユーロドルは結果を受け、東京時間に一時1.1098ドルまで下落した後、1.12ドル台へ切り返すなど乱高下をみせました。WTI原油先物は時間外取引で一時2.5%安の44.45ドルと再び2009年4月以来の水準へ落ち込んでいます。せっかくECBのおかげでブル相場入りしたかのように見えた米株も、再び向かい風に直面しそうですね。
(カバー写真:Marko Djurica/Reuters)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年1月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。