本書も『イスラーム国の衝撃』と同じく、この時期に偶然出た本だが、池内恵氏とは違って、アメリカを中心とする「有志連合」の空爆の正当性を疑問視し、植民地支配の「原罪」を問う。
中東の混乱の元をたどると、第一次大戦後のオスマン帝国の解体にさかのぼる。そのとき英仏が中東を植民地として分割し、第2次大戦後にイスラエルを建国させて戦争の火種をつくったのだ。イギリスが退場してから、代わりに出てきたのがアメリカだった。彼らはユダヤ資本の利益を反映し、イスラエルを守るためにアラブ人を排除した。
イラクはイギリスのつくった人工国家であり、その政権には何の正統性もない。特に北部のクルド人が祖国を失ったため、民族紛争が絶えない。そういう反政府勢力が国境を超えて集まったのが、イスラム国だ。
アメリカの軍事力は圧倒的に大きいが、この戦いには終わりが見えない。イスラム国は、イスラムでもなければ国でもないからだ。それは中東全域に広く分散する不満分子が暴力で住民から掠奪する組織暴力のようなもので、統治機構はない。彼らはイスラムの教えも知らない。ロンドンでつかまったイスラム国のメンバーは”Isram for Dummies”で勉強していた。
かつては高い文明を誇ったアラブをここまで破壊したのは、英仏の植民地支配とアメリカの軍産複合体である。もちろんテロリストと妥協はできないが、空爆で事態が解決する可能性もない。アメリカが攻撃したらイスラム国は退却し、アメリカが退却すると今度の事件のように挑発する。
本書は池内氏に比べると「ハト派」で、やや反米的なバイアスもあるが、「英米の空爆は彼らの自業自得であり、日本は人道支援以上にコミットすべきではない」という結論は、妥当なところだろう。