「正社員はいらない」か --- 北尾 吉孝

アゴラ

「朝まで生テレビ!」の「戦後70年・元旦スペシャル」で竹中平蔵・慶大教授は、「同一労働・同一賃金であれば、正社員をなくしましょうって、やっぱり言わなきゃいけない」と、「労働者派遣法改正案」の是非を問う議論の中で発言されました。

先月27日発売の『経済界』にも『「正社員はいらない」 竹中発言は暴論か!?』という記事がありましたが、一つの文脈において発せられた上記につき本ブログでは以下私の考え方を端的に述べて行きたいと思います。


『孫子』冒頭の始計篇に、「道とは、民をして上と意を同じくせしむるなり」、「天とは、陰陽・寒暑・時制なり」、「地とは、遠近・険易・広狭・死生なり」、「将とは、智・信・仁・勇・厳なり」、「法とは、曲制・官道・主用なり」とあります。

此の「道・天・地・将・法」は「五事」と言われるもので、之に関して例えば倉本長治著『孫子と商法』(商業界)には、「事を起こすに当たって、自分自身の立場や所信はどうか、部下やその組織や制度は整っているのか如何。その己の問題こそ根本だということである」との記述があります。

此の夫々を一言で言えば、「天」とは時間的条件、「地」とは地理的条件、「将」とは将軍の器量、「法」とは軍政に関する条件、ということですが私は「道」こそが、五事の中でも最も大事だと考えています。

道とは即ち「下々の人間を上に立つ者と一心同体にさせる理念」であり、此の道の上に乗ってきちっと国を治め、部下に対してもちゃんと道を踏ませ、そして部下と共に一体感を持ってやって行かねばなりません。

例えばWikipediaで傭兵というのを見ますと、「金銭などの利益により雇われ、直接に利害関係の無い戦争に参加する兵またはその集団である。(中略)傭兵は現代でも存在しており、民間軍事会社のような新しい形態の傭兵も登場している」と書かれています。

また、そこには「歴史的に傭兵の雇用の困難は解雇する場合に生じる場合が多い」として、「大坂冬の陣において雇い入れた浪人の処断に難渋し、それが遠因となり大阪夏の陣を招いている」等の例も「概説」で挙げられています。

傭兵というのは昔から所詮処遇や状況如何で消えて行くかもしれないようなものであって、孫子の言う道(…下々の人間を上に立つ者と一心同体にさせる理念)の下で、一つのベクトルに従って動いて行く正社員が出来得る限り多い方が望ましいと企業側は考えるのではないかと思います。少なくとも、小生は経営者の端くれとしてそう思います。

『孫子』は戦に勝つべくその戦略性も勿論ではありますが、部下の心理・敵の心理・顧客の心理といった人の心の掴み方に関する分析、あるいは此の道のように企業が進歩・前進して行く上での大事な考え方を記した書物としても、私は予てより此の書を非常に評価しています。


編集部より:この記事は北尾吉孝氏のブログ「北尾吉孝日記」2015年2月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった北尾氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は北尾吉孝日記をご覧ください。