ヨルダンのパイロットがイスラム過激テロ組織「イスラム国」によって焼殺されたというニュースは世界を再び震撼させている。オバマ米大統領、オランド仏大統領、メルケル独首相ら世界の指導者たちは一斉に「イスラム国」を批判し、「絶対に許さない」と表明している。メルケル首相は「人間がどうしてあのような酷いことができるか分からない」と呟いたという。イスラム国の蛮行を目撃する度に同じように感じる人は多いだろう。
▲アンマン市の風景(2014年5月10日、アンマンで撮影)
ヨルダンの首都アンマンに昨年取材し、多くの新しい知人と出会った当方はヨルダンからのニュースが気になった。政府や国民は「イスラム国」に対して報復を宣言しているという。ヨルダンは人工国家と言われ、小国家だ。アンマン国際空港やホテルにはフセイン前国王、アブドラ現国王、そしてその息子アブドラ皇太子の3人の肖像画が掲げられている。パレスチナ人難民が多数を占め、地理的にも同国は中東の緩衝地的な役割を果たしている。親米国家であり、イスラエルを容認している数少ないアラブ国家だ。
「イスラム国」がジャーナリストの後藤健二さん(47)と引き換えにヨルダンの刑務所に収容されている女性自爆テロリストの釈放を要求したと聞いた時、正直言って少し変だな、と感じた。女性自爆テロリストは「アルカイダ」幹部の未亡人というが、アラブで拘束中の女性テロリストの釈放の為に人質交換を要求すること自体、普通ではない。目的はヨルダンを揺さぶり、政情を不安定にすることが狙いだったと見ている。
アンマンからの情報によると、ヨルダン当局はパイロットの殺害の報復として、拘束中の複数の過激派テロリストを処刑したという。ヨルダン政府、国民の心情は理解できるが、報復では問題は解決できない事は明らかだ。
いつものように、バチカン放送独語電子版を追っていると、「彼はキリスト者だった」というタイトルの記事に出会った。「イスラム国」に殺害された後藤さんのことが紹介されていたのだ。殺害された後藤さんが敬虔なキリスト者だったことを初めて知った。当方には、後藤さんの生前の発言を読んで理解できなかった部分があったが、その真意が少し理解できたように感じた。
「後藤さんがキリスト者だったから特別だ」という気持ちはさらさらない。後藤氏が神を信じ、イエスのような生き方をしたいと願っていた日本人ジャーナリストだったことを知って、当方は改めて後藤さんの発言を振り返ってみた。「戦争のない世界」を夢見てきたという後藤さんは単なる平和主義者の発言ではなく、神の世界を夢見ていたことが分かった。人質となっていた友人湯川遥菜さん(42)を解放するために危険な地域に取材に出かけたのは、後藤さんの心の中に“イエスに倣って”歩んで生きたい、という熱い思いがあったのだろう。
バチカン放送は後藤さんがカトリック信者か、プロテスタントかは書いてないが、そんなことはどうでもいいことだろう。後藤さんは1997年にキリスト者になったという。幼児洗礼で信者となった人ではなく、人生を歩みだした後、神に出会った人なのだろう。
悲しいことは、後藤さんが無神論者によって殺されたのではなく、“アラーを唱え、神の国を願う”イスラム過激派テロリストによって殺害されたという事実だ。後藤さんにとって、一層辛かったことではないか。神の名を乱用する者から神を一刻も早く解放することが後藤さんの願いに応えることにもなるのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。