全ての道はTPPに通ず

岡本 裕明

円がポンと120円台を付けた昨日、日経電子版には二つの相対する記事が同時に掲載されました。一つは「ミセス・ワタナベ お見事、120円台で巨額ドル売り」、もう一つは「円120円台の真相と潮目の変化」であります。前者の記事は120円半ばで空前のドル売りを仕掛け、売り抜けたミセスワタナベこと日本の個人FX投資家を称賛するものです。その直後の「日銀の更なる緩和は日本経済に逆効果の見方がでている」という報道で一気に118円台まで円高になったのをミセスワタナベは見越していたようだ、という驚きを内包させることでこれ以上の円安はないというニュアンスを強く植え付ける内容です。


一方の「円120円台の真相と潮目の変化」の記事はかつてのセーフヘイブンの円はその役目を終え、アメリカの利上げタイミングと欧州の量的緩和の狭間で円は今後更に安くなるという読みであります。

どちらが正しいか、これは短期目線か長期目線か、という事も含め、勝敗はつけられませんが、少なくとも日銀の更なる量的緩和に対する熱意の消滅感は確かにあります。これは昨年の秋のサプライズ量的緩和第二弾が消費税引き上げの援護射撃とみられたものの、その引き上げは延期、更に1月以降の黒田日銀総裁の珍しく非論理的な記者会見の背景に見える彼の混乱振りには別の大きな力があったとみてよいでしょう。

もう一つ。日ロ次官級協議が12日に開催され、外務大臣の会談を経て、安倍/プーチン会談を本年後半に計画することで合意しました。が、日本側に「プーチン大統領の来日のタイミングは焦らなくてよい」という流れがありありと出ています。本来であれば昨年来日する予定だったものが今年の春に延期され、今は早くて今年後半という流れがあるのは明らかに経済制裁を受けているロシア/プーチン大統領との接触がアメリカとの関係で芳しくないとされるからであります。

ところで先日JA全中が一般社団法人になり、農協の監査権をギブアップすることが政府と合意されましたが、これは日本の農業の改革が最大の目的ではありますが、この岩盤構造改革を打ち破らなくてはいけなかったのは明らかに目先に迫ったTPP交渉の打開であります。

レームダックと言われているオバマ大統領はここにきて動きがサクサクとしてきました。イスラム国に対する強い態度、キューバとの国交回復などがありますが、レガシーを考えるならば当然TPPも絶対に完了させることが必要であります。そして次期大統領選挙において本命とされるクリントン候補にそのバトンを渡すことが最大の使命であり、オバマ大統領のイメージ回復戦略はここにきて大きく舵を切ったように見えます。

小さな記事でしたが先週、ルービン元米財務長官とルース前駐日米大使が首相官邸で会談し、ルービン氏らはTPP交渉について「米国も(妥結の)機運が劇的に変わっている。オバマ大統領も一生懸命にやろうとしている」などと説明した(日経)とあります。

これらの事実関係、そしてここにきてグッと進んだTPPの日米間交渉を鑑みれば本年のさほど遅くない時期に交渉締結となるのではないかとみています。タイミング的にオバマ大統領が習近平国家主席をアメリカに招待しているのが秋ですからこれが一つの目安になるとみています。習国家主席にTPP妥結を踏まえてTPPに加わっていない中国とアメリカの関係を維持するための重要な説得と説明、更に今後のプランが内包されているからでしょう。だからこそ「招待」なのです。

こう考えると黒田日銀総裁がレームダックになってしまう可能性があります。安倍首相のことですから「緩和?そんなことをやるタイミングではない」と一蹴するのがオチでしょう。緩和はしなくてもアメリカの金利は今年上がるし、オイルの価格も遠くない時期に安定から上昇に変わるはずです。特にオバマ大統領が重い腰を上げてイスラム国殲滅作戦の宣言をしたという事はそれを早くやり、原油価格を引き上げられる周辺環境を整備するという事です。

安倍首相のハートの中身はTPPが最優先でインフレ2%やアベノミクスよりも外交で挽回したいというのがありありと見て取れます。首相へのバレンタインのプレゼントはTPPの文字をかたどったハートのチョコレートがお似合いかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 2月13日付より