マンガの人材育成と国際連携 --- 中村 伊知哉

アゴラ

アニメ・マンガの人材育成に携わっています。 


さきごろ、文科省「アニメ・マンガ産学官連携コンソーシアム」の統括委員会が開催されました。アニメ・マンガの人材育成のため、カリキュラム開発、デジタル制作支援、キャリアアップサポートなどを行う政策で、ぼくが委員長を務めています。副委員長は為ケ谷秀一女子美大教授、市川ゆうじ ぴえろ会長、松本悟日本動画協会専務理事、西野公平京都精華大学准教授です。

この委員会は3年目になり、一区切りと見込まれていましたが、文科省が理解を示し、あと2年続ける可能性が出てきました。産学連携で、デジタルマンガフォーラム、アニメ人材育成センターの発足にこぎつけたいと考えています。

特に、デジタル対応を急いでいます。

電子書籍・雑誌は2013年に1013億円。うちコミックは731億円。デジタル書籍の7割がマンガなんですね。プロの作家がデジタルに移行する過渡期にあります。その対策・支援が必要です。デジタル作画・制作・編集のできる教育の場、そしてそれがビジネスにつながる仕組み、を作りたい。竹芝CiPもお役に立ちたいと考えています。

「デジタルマンガキャンパスマッチ2014」も進んでいます。新人発掘・育成からビジネス化までをプロデュースする企画で、里中満智子さんらマンガ家のかたがた、講談社集英社小学館ら10社のコミック編集部、そして70の専門学校・大学が参加しています。こちらは実行委員長を務めます。以前ブログに書きましたね。

日本はマンガ先進地ですが、海外との連携も進め、国際的な底上げも大事です。そこで委員会の当日、「海外マンガフェスタ」のシンポジウムも開催しました。

仏大使館文化部クレア・テュオーデ参事官、伊文化会館 エドアルド・クリサフッリさん、スペインセルバンテス文化センターマヌエル・ペレスさん、そしてロシアの声優ジェーニャさん、さらにちばてつや先生、里中満智子先生。マンガの国際化・デジタル化について語りました。ぼくが司会です。

フランスでは全マンガの4割が日本マンガ。スペインは輸入マンガの2割が日本モノ。イタリアではマンガの影響で日本語を学ぶ人が増えたとの報告がありました。ロシアはソ連からの体制変更でようやく海外文化が流入してきたので、それよりも少し遅い。

ただ、いずれも紙文化が強くて、電子書籍・デジタルものは少なく、まだこれからとのことです。日本のほうが先行しているようです。

とはいえフランスもネット配信で成功したマンガ家や、読者とブログで対話する作家の事例を挙げ、イタリア・スペインもデジタル制作・配信の増加傾向を指摘、デジタル化は必須との見通しを表明しました。ロシアは正規版が少ないため海賊版をネットで読む状況を説明。

イタリアは特に、高尚な文化を重視する傾向が強く、ポップカルチャーが蔑視されてきたが、ウンベルト・エーコの影響で、徐々にその地位が向上しているとのこと。

ちばてつや先生は、デジタル化への大きな変わり目にあると指摘。里中満智子先生も、紙資源の問題と流通の問題からデジタルへの移行は必然との認識で、ツールが豊富になり、デビューもしやすいなど、デジタル対応のメリットを指摘。ただ両者とも著作権や違法コピー問題に懸念を表明していました。

このあたり、課題は共通なのですが、これまで国際交流は少なかった。ちばてつや先生がマンガのもつグローバル性に着目し、やなせたかし先生の「マンガが読まれている国は平和」という言葉をひいて、マンガ分野の国際対話を促したのが強い印象を残しました。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年3月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。