中央大教授が入試改革異論ブログで炎上した件

新田 哲史

どうも新田です。高校時代、千葉県民だった私は八王子にある中央大学への受験は遠くてめんどくさくて見送りました。ところで、常見のアニキの意識高い系記事を始め、独特な炎上傾向を見せるNewsPicksですが、ハフィントンポストに転載されていた「社会のニーズから乖離していく大学入試改革」という記事が、また盛り上がっていたようなので覗きに行ってみたんですよ。


◆AO入試に“NO”
いま、某大臣補佐官のダイヤモンドオンラインでの連載記事の編集をお手伝いしている関係で、教育が専門ではないワタクシメも、文科省がこれから着手しようとしている入試改革のグランドデザインの一端を聞かされて関心が深まっていたこの頃でした。私の認識では「時代のニーズに合わせようとしている」なのに対し、タイトルが「社会のニーズから乖離」と大見得を切っており、さぞ注視すべき論考だろうと思った次第ですね。

で、その記事を書いたのは中央大学の竹内センセ。半導体ビジネスの世界でしのぎを削った「第一人者」で『世界で勝負する仕事術』というグローバルマッチョな本も出されています。


詳しくは当該のハフポの記事をお読みいただければと思いますが、要は「『一点を競う試験』から『人物重視』の入試、現在のAO入試のようなものに大学入試を変えようとしている」(原文より)という現在の傾向に違和感をお持ちらしく、

社会の誰がこのような教育を望んでいるのでしょうか?

教育の現場を知らない政策担当者が「頭でっかち」「理念優先」で改革を推進しようとしているのでしょうか。

ゆとり教育の二の舞にならないのか、心配です。

んでもって。

社会のニーズも変わってきています、しかも、政策とは正反対の方向に。

少子化にもかかわらず過熱する中学受験。

公立も中高一貫校が出てきていますので、「しっかりした教育を早くから受けさせたい」という親のニーズを中高一貫校が満たしているのでしょう。

さようですか。
たしかに現象面だけをとらえると、そういう言説も生じるのはムベナルカナ。まあ、ゆとり教育が理想主義的な不発弾に終わったのは事実ですしね。しかしググれば基本的な知識が得られるご時世にシフトしていく中で、知識をどう活用するか思考力、分析力も今後ますます問われますよね。日本の教育システムが知識詰め込み型、マークシート偏重から変わらないのは大学受験が旧態依然としている現実がまだまだ根強いからで、そこにメスを入れないと高校以下が変わらないから、という現場オリジンの発想から一連の改革着手につながっているんですが、竹内センセが、そうした経緯については一切触れずに、「現場を知らない」とdisり断定されている根拠が何なのか非常に興味深いところです。

◆AO入試は絶対悪か
そもそも論として、竹内センセは、文科省が現行のAO入試をそのまま普及させようとしているかのようにご認識されてるようですが、毎日新聞が昨年10月、「国公立大の2次試験から学力試験が廃止される」と、世紀の大誤報をやらかしてしまったように、誤解や勘違いが広がっているなと感じます。

AO入試が小母方さんのような“逸材”を生んだことで波紋を呼んでいるのは確かですが、補佐官や文科省の幹部の皆さんは、AOの名前だけを借りて、まともな学力考査も無く、亜流で粗悪な面接入試が三流大学で横行している実態くらい、熟知していますよ。今後「なんちゃってAO」は淘汰されるんじゃなかろうか。

むしろ、NPでKOの中室センセが指摘していたように、SFCでは、AO経由の学生の方が入学後に成績が良いというデータがあり、一方で取りやめる方向の国立大学もあるという経緯をきちんと検証すべきなんじゃないでしょうか。人材の多様化と学力の向上という二つの目的を達成する上で、データや事例に基づいた、様々な綿密な分析が必要なことは、竹内センセが「現場を知らない」と決めつける文科省のお偉方のなかにも分かっている人はいますし、そもそもここで言う「現場」って何?って感じなのはワタシメだけですかね。

◆「渋谷幕張って何?」大放談が止まらない
いずれにせよ、竹内センセの記事がNPユーザーの目を引いてしまうのは主観的に過ぎるところがあるからなんじゃないでしょうか。中学受験の過熱化に言及する中で、高校別の東大合格ランキングを引用しているんですが、なんですか、これは。

私自身も中学受験をしましたが、この表を見ると、
・ものすごく偏差値が高い渋谷幕張、西大和って何だ?
・聖光や駒場東邦はこんなに偏差値高くなったのか
・武蔵はどこに行ってしまったんだろう
・名門私大の付属校は何でこんなに下がったのだろう

いやはや。。。千葉出身者としては、母校ではないですが、地元のナンバーワン私立のシブマク(渋谷幕張)を小馬鹿にされたような気分ですがね。シブマクや西大和のような“新興勢力”の理工系志望生徒は、もうこんな正直すぎるセンセがいる中大理工学部を受験したくなるのかどうか、非常に興味深いところです。

ちなみに、「社会のニーズをとらえていない」「現場を知らない」的な文科行政disりが止まらないわけですが、中央大学が大学入試改革の抵抗勢力の旗手になるのかどうか、これはこれで見物です。まあ、文科省が各大学の入試改革を本気でさせるため、将来的には各大学の取り組みぶりによって補助金も含めたインセンティブ構想も視野に入れる中、独自路線を貫いて文科行政と一線を画すのか生温かく見守りたいところです。

本稿は言わずもがな、文科省が一切関知しない、筆者の独断と偏見に満ちたアングラ原稿でございますが、中室センセがおっしゃるように、一連の改革から十分な科学的な検証に基づいた感じが伝わってこないのもこの手の炎上の一因なわけで、このあたりは文科省の今後の宿題かもしれません。ではでは。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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