格差社会の軋轢、グウィネス・パルトロウを直撃 --- 安田 佐和子

アゴラ

*フードスタンプの支給額に誤りがありましたので、お詫びして訂正いたします。

格差撲滅運動という堂々たる名前で話題をさらった”ウォール街を占拠せよ!(Occupy Wall Street)”がすっかり鳴りを潜めたもののの、アメリカ人が関心を失った訳ではありません。道路や橋を封鎖して抗議活動を展開しても何も変わらないと漸く気づいたのか、職にありつきデモに参加する暇がなくなったのか。いずれにしても米雇用統計の賃金動向をみると非管理職は左うちわと言い難く、今の生活を切り盛りすることで手いっぱいという事情が見え隠れします。


そんな時に、こんなニュースが飛び込んでくれば格差社会への不満が再燃してしまうのでしょう。

グウィネス・パルトロウは、ニューヨーク市フードバンクが実施している”#FoodBankNYCChallenge”に挑みました。仕組みは簡単。栄養補助支援プログラム(SNAP)により政府から低所得者層向けに配布される食糧購入用チケット=フードスタンプで、食事をやりくりするというもの。有名シェフでありイタリア系グルメ・マーケット”イータリー”をプロデューサーとして知られ、2012年にチャレンジにトライしたマリオ・バタリ氏の指名を受け、グウィネスが挑戦することになったのです。

米議会が過去1年半の間に、約4700万人が支給を受けるフードスタンプの支給額はどんどん削減されていき、NY州の場合は4人家族の1世帯当たり最大で649ドル(1人当たり週ベースで約40ドル、約4800円)となりました。グウィネスの1週間当たり29ドルという予算は、支給額より厳しいものがあります。苛酷な挑戦に対し母が女優、父が映画/TVプロデューサーというサラブレッドでありオスカー女優でもある彼女が購入した注目の食材は、こちら。

菜食主義なグウィネスには十分でしょうが、子供のいる世帯では非現実的。


(出所:Gwyneth Paltrow/Twitter

早速、ツイッターは大炎上。「Excuse you?」というシンプルな皮肉から、「低所得者層はそんなもの買わないわ!大半はできる限り長い間食いつなげるよう安い食品を買うのよ!」とストレートな攻撃、さらには「高見の見物ができる馬から落ちて、生活保護という芝生に落ちればいい」と辛辣なものまでございました。

メディアでも、タイム誌が「悪いけど、グウィネス・パルトロウ、貧困ツアーなんてムカつくわ(Sorry, Gwyneth Paltrow, Poverty Tourism Is Gross)」と題した記事を配信。ワシントン・ポスト(WP)紙も「グウィネスのフードスタンプ・チャレンジは一番グウィネスらしいこと(Gwyneth Paltrow’s food stamp challenge is the most Gwyneth Paltrow thing ever)」と銘打ち、あらためて世間の反感を買ったと伝えています。

重箱の隅を突くようですが、グウィネスが購入した食材にライムが7個ありました。1個およそ1.5ドルとしても10.5ドルと予算の半分に到達する有様だったので、庶民からすれば怒りを禁じえなかったのでしょう。

おまけにWP紙によると、ライム+ケールのフレッシュ・ジュースや豆類の卵入りトルティーヤで1日の摂取カロリーは1000カロリー程度だといいますから、およそ健康的とも言えません。嫌味のつもりではなく悪意をもってチャレンジしたわけではないのでしょうが、格差社会に喘ぐ一般市民にとっては許し難い侮辱と映ったようです。グウィネスが主宰する電子商取引サイト”グープ”の商品には、5005ドル(約60万円)のダイニング・チェアも並びますからね。

(カバー写真:EyesOnFire89/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年4月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。