AIIBがいろいろ話題になっているが、著者の結論は「日本も参加すべき」である。「中国が中心では公正な運営は期待できない」という批判が多いが、世銀もIMFも第2次大戦のなごりをいまだに残す「戦勝国体制」で、世銀はアメリカ、IMFはヨーロッパの利益を露骨に反映している。
特に疑問なのは、ロシアと戦争状態にあるウクライナにIMFなどが400億ドルも融資したことだ。これはEUに加盟しようとするウクライナの現政権を支援するためといわれるが、ロシアが併合したら債務不履行になる可能性もある。ギリシャには総額1100億ユーロもの融資を行なわれているが、これもデフォルトになるおそれが強まってきた。
つまり既存の国際金融機関も、AIIBを批判できるような公正なものではないのだ。グローバル化は英米の利益のために進められてきたので、中国を初めとする新興国にとって不利なしくみになっている。これを是正して新興国に必要なインフラ投資を進めるAIIBの構想は悪くないが、運営には監視が必要だ。
もともとEUは、2度の大戦にこりて経済的な相互依存を深め、3度目の戦争をしないようすることが目的だった。しかし何百年にもわたって戦争を続けてきた主権国家が、その主権を容易に放棄するものではない。その矛盾と妥協の中で、各国の財政が独立のまま通貨を統合したユーロそのものが危機の原因だった、と著者は指摘する。
いまEUで起こっていることは、1970年代に起こった固定相場制の崩壊と同じである。ユーロ離脱(通貨切り下げ)を行なうとみられたギリシャの国債が投げ売りされ、離脱が起こると他のPIIGS諸国にも金融危機が波及するおそれがある。この背景には、実質的にEUを支配しているドイツが敗戦国なので指導力を発揮できないハンディキャップがある。
だから世界は一つではなく、それが完全に一つになるグローバリゼーションも実現しないだろう。各地域の実態に応じて、ある程度のブロックでまとまるのが自然だ。その意味では、欧米ブロックのメンバーでありながら、アジアの指導的立場でもある日本は、外交的にうまく立ち回れば、AIIBでもそれなりの影響力を発揮できるかも知れない。