敢えてシルバー民主主義を擁護する --- 山城 良雄

やれやれ……終戦や。アゴラでも敗因分析の議論が進んでいる。自分のも含めて関連記事を読んでいて、妙なことを思い出した。中1の時の体育祭の話や。

わがB組は大接戦の末、ライバルC組を1点差で下して優勝した。こういうときの中学生は、「オレが騎馬戦で相手の大将を叩いた」とか、「最後の応援合戦が効いた」なんてやり出すが、ワシの一言、「一点差やから全部が勝因やがな」で、急に場がシラけてしもた。子供のときから、「冷水ぶっかけタイプ」の芸風やったんやな。


今回の住民投票。僅差やったんやから数千人規模で影響のあったようなことは、全てが勝因敗因になり得る。ここまで細かい話になると検証はほとんど不可能やから、何でも言いたい放題や。自戒を込めて、ここはひとつ一旦冷静になるべきやと思う。

まず、シルバー民主主義云々の話。投票率の議論は別として、20~60代がわずかに賛成が上回っていて、70代が圧倒的に反対という状況で、「老人が都構想を潰した」とは、さすがに言いにくい。

今晩のおかずを決める時、兄ちゃん姉ちゃん父ちゃん母ちゃんが「どっちかと言えば肉」で、じいちゃんが「ワシ断然、魚」と言って、刺し身になったとして、「クソじじいのせいでハンバーグ食べれん」とガキが叫くようなもん。犯人捜しの感情論でしかない。おかんにビール飲ませて、選択肢から刺し身を潰す戦略がなかったことを反省せい。

大阪には老人が多くて投票率も高いことなど分かり切った話や。現職の市長が知らんはずない。シルバー云々よりも、政策か広報の失敗と言う方が正確かつ公平やろ。

さて、本当に老人票が反対に集中したのか、もう少し調べてみよう。幸い、24区ごとの賛否の票数高齢化率(2008の国勢調査)を市が発表しているからグラフにしてみた。縦軸は(都構想反対率の-50)%、横軸は(65歳以上の割合-全市の平均)%で、上ほど都構想反対、左ほど若い区である、ということになる(図1)。また、(幻の)「特別区(注1)」ごとに、色を分けて点をプロットした。

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図1を見て分かるのは、このままでもかなり強い相関関係(注2)が見られるということ。高齢化率が平均以上の区は全て、反対が賛成を上回っている。老人が多い区ほど反対票が集まるという仮説は、確かに説得力を持つ。

また、「特別区」ごとに、かなり点が固まるということも判明した。特に、反対一色だった「湾岸区」「南区」、賛成一色だった「北区」はキレイに固まっている。

もっと面白いのは、前に指摘した人工的な区割りの影響が丸見えということや。まず、リッチな「中央区」に入れてもらえた西成区は、高齢化の割に反対が少ない。ラッキーと思っているんやろう。

逆に、西成と一緒にされる「中央区」の他の面々(左側の緑の4点)は反対が多い。「湾岸区」に入れられた西淀川区も同様や。

だから、自然な区割りにしていたら、(たとえば、西成区を「南区」にし、西淀川区を「北区」にしていたら)西成の緑点は大きく上に移動し、「中央区」の緑4点と西淀川の赤点は下に移動していたと思うわれる。こうなると、さらに高齢化率と都構想反対率の相関関係が良くなり、もっときれいな直線上に各区の点が並ぶようになるやろう。

正直、ここまで老人票が大きかったとは思わなかった。

では、なぜ高齢化率の高い区では反対が多いんやろうか。気をつけなアカンのが、高齢化率が高い区でも、反対票を入れたのが主に老人(だけ)とは限らんこと。

よくある説明で、「高齢者の多い地域には安い住宅が並んでいて、生活保護受給者などが集まってくる。彼ら年齢に関係無く、福祉にメスを入れる『改革』につながりそうなことには、必ず反対をする」という仮説や。

もし、これが本当なら、生活保護受給率(市発表2005.3)は高齢化率よりも、都構想反対率に強い相関(影響)を持つはずや。図1と同じように、各区の生活保護率(%)と反対率との関係をグラフにしてみた。最初に目が点になるのは、浪速区と西成区の異常さや。生活保護率10.20%。住人の10人に1人が生活保護を受けている(図2)。誰ぞ、なんとかしてくれぇ。

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さて、生活保護率と反対票の関係やが、図1の高齢化率の場合と比較して、はっきりと相関が大きいようには見えん。攪乱要因になっている「中央区」の5区(緑の5点)を無視すると、確かに相関関係は大きくなって見える。そやけど、同じ事は図1でも言える。結局、相関関係の深さからは、高齢化と貧困化のどちらが「都構想への反対」に直接関係しているのかは判定できんということや。

ただし、「特別区」ごとのデータを見ていくと、「北区(青)」は高齢化率が、「湾岸区(赤)」「南区(オレンジ)」は生活保護率が、より強い影響を持っているように思う。

以上にワシなりの観察を加味して解釈すると、次の3点が出てくる。

  1. 区割りを巡る不平不満のありそうな所では、反対が多くなる。
  2. 貧しい区ほど反対が大きい、特に「湾岸・南・東」の「3区」で顕著。
  3. 「北区」では老人の多い区ほど反対が多いが、生活保護との関連は必ずしも強くない。恐らく、前にも書いた「大阪市が無くなること」に対する感情的反対があちこちで、組織されたことが原因やろ。

もう少し図式的に言うと、豊かな老人は「伝統ある大阪市を守る」という自民党的理由で、貧しい老人は「自分たちへの福祉を守る」という共産・公明党的理由で、都構想反対に回ったということになる。

善し悪しは別として、この結果、全体を単純にシルバー民主と言ってしまうのは、やはり無理やと思う。

だいたい、シルバー民主主義が絶対にアカンのなら、「老人の意見は、たとえ多数でも無視しろ」と言うことになる。膨大な弱者を切り捨てないと社会が回らんのなら、議会制民主主義それ自体が持っている問題やろ。こういうことには、確かに社会主義計画経済は強かった。

そやから、あまり自由主義・資本主義に自信を持ちすぎん方がええと思う。社会主義の欠陥は構造的で修復不可能やが、資本主義の欠陥は政策的な微調整でOKというのは、あまりにもムシの良すぎる楽観論や。シルバー民主主義と官僚社会主義、アンタが好きなのはどっちや。

自由主義に関しても同様。何しろ、少子化が一番進んでいないのが、女性の人権など、まるで認めない(ワシらにはそう見える)イスラム圏やったりする。

湾岸戦争から20年以上になるが、いまだに手を変え品を変え、アメリカやイスラエルに隙があったら蹴りを入れ続ける連中、真珠湾から4年もたずに降参して、それ以降はアメリカのポチ一筋70年という国より、若者のパワーはありそうや。

選挙の翌日、頭を金髪に染めたオバチャンがおった。「シルバー民主主義あかんらしいから、こっちにしたで」……いずれ丸坊主になるやろ。

(注1)幻の特別区には「」と付けて、現行の大阪24区と区別することにした。ヤヤコシイからな。

(注2)こういう話では、因子分析やら相関係数やらを持ち出してくるのが定跡やが、あとの議論があまり精密でもない(いつもの事でんがな)ので省略する。メンドクサイからな。

今日はこれぐらいにしといたるわ

久々にやる気が出てきた 山城 良雄