4月FOMC議事録で、6月利上げ観測にサヨナラ --- 安田 佐和子

4月28-29日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が公表されました。声明文がハト派寄りで6月利上げ観測を後退させたように、今回の議事録で6月マジックは完全消滅。3月FOMC議事録では意見が分かれていたものの、4月は「多くの」参加者が6月の可能性は低いとの判断を下していました。FOMC議事録のポイントは、以下の通り。


▽利上げをめぐる協議
・多くの参加者が6月利上げの可能性は低いと判断
・6月利上げを予想した参加者は数人(a few)のみ、3月の複数(several)から減少
・FOMCごとの決定は適切

▽経済動向
・委員会は、1-3月期の経済鈍化につき一時的との判断で一致
・1-3月期の鈍化は一時的のため、回復見通しに変更なし
・大寒波、西海岸の港湾労働者ストライキが影響
・低金利、消費者マインドの上昇、賃金の増加が回復の支援材料
・多くの参加者は、労働市場の改善ペースの鈍化を指摘
・民間支出は1-3月期に経済を大きく下押し
・中国の成長減速、ギリシャ債務問題がリスク要因

▽ドル高、原油安
・輸出はドル高の影響で減少
・ドル高と原油安が企業の設備投資に打撃
・購買力の高まりは実現せず、消費は参加者の予想以下にとどまる可能性
・ドル高は今後も輸入および成長の足かせに

▽金融市場
・低水準にあるタームプレミアム(保有する債券の期間に合わせた上乗せ金利)を懸念
・複数の参加者は、利上げ開始にあたり2013年の”テーパー・タントラム”のように長期金利を中心に著しく上振れするリスクを指摘
・過去と比較し、債券市場のボラティリティが高い可能性
・ボラが高い理由は、1)超高速・高頻度取引、2)債券ブローカー・ディーラーが保有する債券の減少、3)債券ファンドの資産拡大——の3つ
・複数の参加者は、注意深い政策の舵取りでボラを軽減できると主張

ボラティリティ、サマーズ元財務長官やJPモルガンのダイモンCEOも警鐘を鳴らしていました。


(出所:Mark Lennihan/AP)

モルガン・スタンレーのエレン・ゼントナー米主席エコノミストは、結果を受け「年内利上げを念頭に入れている様子がうかがえる」と指摘。もっとも時期については「確信が持てないでいるようだ」と分析し、利上げ開始時期を「12月」で据え置いた。なお同エコノミストは以前、利上げ第1弾を「2016年初め」と予想していた。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番であるジョン・ヒルゼンラス記者による「FOMC議事録、6月利上げに疑問符(Fed Minutes: June Rate Hike Doubtful)」との記事を配信。市場関係者の間では、多くが9月あるいはそれ以降の利上げを織り込みつつあると報じている。

FOMC議事録を受けて、FF先物市場の12月利上げ織り込み度は59%。米4月雇用統計後より上昇したものの、議事録公表前とはさほど変わらなかったようだ。

——マーケットが以前から9月以降の利上げ開始を織り込むように、6月利上げマジックが完全に途絶えました。惨憺たる米1-3月期国内総生産(GDP)速報値が足を引っ張ったのは言うまでもありません。米1-3月期GDPをめぐってはエコノミストやメディアを中心に下押しバイアスが掛かっている可能性が取り沙汰されており、CNBCによるとGDPを算出する米経済分析局も季節調整における統計のゆがみを認識しているといいます。サンフランシスコ連銀もレポートで同問題を指摘しており、7月のベンチマーク改定で修正が入ることでしょう。

そうは言いながら景気減速は「一時的」と判断するほか金融市場のリスクに配慮しており、年内利上げのスタンスは変わらず。ダウ平均は一時プラス圏を試したものの、小幅安で取引を終えました。

(カバー写真:Blaine O’Neill/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年5月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。