国連で開かれていた「核不拡散条約(NPT、Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)」の再検討会議が閉幕した。結局、最終日の5月23日になっても参加国の同意を得られず、条約締結ができないまま終了。全会一致が原則のため、提出されていた条約案は不採択になった。
日本国内では、広島と長崎という原爆被爆地への各国指導者の訪問を提案した条約案に対し、中国の抗議でこの部分の文言がまるごと削除されてしまった、という報道ばかり目だった。中国が反対した理由は、戦争の被害者としての側面を強調する日本が侵略者としての「歴史」を薄めようとしている、というものだが、これはもう「妄言」や「邪推」としか言いようがない。
しかし、参加国が同意せずに不採択になったのは、これが理由ではない。中東における「非核化」を盛り込もうとしたこの条約案がもし成立すれば、核兵器を保有しているとされるイスラエルが批難されてしまう。親イスラエルの立場を取る米国、英国、カナダの三カ国は、この条約締結に強硬に反対した。
イスラエルが今の場所で「独立」したのは第一次世界大戦直後の1948年だ。周囲をイスラム国に囲まれ、四面楚歌の同国は、石油も産出せず、エネルギー的に自立することが急務だった。そのため、1950年代から原子力開発を進め、主に1967年の第三次中東戦争まで最大の兵器供給国だったフランスの技術供与により原子力発電所を建設したようだ。
推測では、1957年にイスラエル南部の砂漠地帯に最初の原子力発電所が建設されたらしい。日本で原子力基本法が成立したのが1955年。日本初の原発による発電は1963年になる。東西冷戦が激化する中、イスラエルと日本で核開発がほぼ同時に始まったのには何か理由や背景がありそうで興味深い。もちろん、日本は今でも核兵器の保有国ではない。
イスラエルは、原発由来の核兵器もかなり早い段階から保有していた、とされている。実際、1973年の第四次中東戦争時には核兵器の使用の直前までいったらしい。イスラエル自身は、核兵器を保有していることについて沈黙を守っている。持っているか持っているかわからない状態こそ、核兵器の有効な使用法の一つと言うことを熟知しているのは朝鮮半島の北側の国も同様だ。イスラエルは、核弾頭を数百発の規模で保有している、という見立てもある。
ちょっと古いが、2012年にドイツの「Spiegel」が報じたところによれば、ドイツは水上ではディーゼル、水中では燃料電池で推進する通常型潜水艦をイスラエルへ輸出しているようだ。この潜水艦は、212型の輸出バージョンの214型でイスラエル名「ドルフィン級」。数週間の潜水行動が可能で、準原潜並の隠密性を持つ。また、ドルフィン級はイスラエルが独自開発した巡航ミサイルに核弾頭を装備し、水中からの核攻撃が可能とも言われている。これにより、同国の「核による威圧効果」は格段に向上した。
イスラエルが保有する「ドルフィン級」通常型潜水艦。ドイツは韓国へも214型の潜水艦を輸出し、ライセンス生産で現在6隻が就役している。Credit:shlomilis
ところで、イラクの核開発を阻止するため、イスラエルがイラクの原子炉を爆撃したのは1981年のことだ。中東の「非核化」という意味で言えば、イスラエルのほうが容疑者としてはずっと「先輩」だろう。だが、欧米を含む国際社会が、イスラエルの核保有を批判することはない。これは一種の「ダブルスタンダード」であり、イスラム世界からみれば、なぜイラクの核が悪くてイスラエルの核が許されるのか、理解できないだろう。イスラエルの核は、石油産出国の多い周辺のイスラム諸国に対する「威嚇」効果がある。中東の緊張は、石油価格の上下動に深く関係する。米国や英国も産油国であり、石油価格を用いた両国の世界戦略にとってイスラエルの核の重要性は大きい。
今回の核不拡散条約の不採択は「核保有国」イスラエルと国境を接するエジプトなども、核不拡散条約に中東の非核化を盛り込むように執拗に要求し、米国などと鋭く対立した。不採択の責任を米国や英国、カナダなどへ一方的に押しつけることはできない。また、再検討会議の過程で、被爆国である日本が核兵器の「非人道性」を国際社会へ強く訴え、今後の核不拡散交渉や関連会議に大きな影響を与えることになったことも大きいと言えるだろう。
真実を探すブログ
【悲報】核拡散防止条約(NPT)再検討会議、最終文書採択できず決裂で閉幕!「中東非核化」で米やイスラエルなどが異議!
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アゴラ編集部:石田 雅彦