プライベートエクイティの社会的機能

銀行融資に代表される債権は、予測された事業キャッシュフローの範囲内で、利息支払いと元本弁済が可能であることを、基本的要件にしている。どんな企業でも、程度の差こそあれ、事業キャッシュフローの見込みは成り立つ、というよりも、成り立たないようなものは、社会的に企業や事業とは認められない。


さて、その見込みだが、資金を貸す側の銀行等と、借りる側の企業との間に、合意が成立しているのでなければ、融資など実行されるはずがなく、その合意が、融資額の上限を決めているはずである。

企業の必要資金が合意範囲内で充足していれば、それでよい。しかし、必要資金が融資の上限を超える場合は、どうしたらいいの。もう追加的融資は得られないから、資本構成の下のほうで調達するしかない。例えば、社債(転換社債含む)や株式の発行である。このように、銀行等の融資が受けられなくても、資本市場からの調達が可能ならば、それでよい。

では、銀行等からの融資が得られず、また資本市場からの調達もできない場合は、どうしたらよいのか。何らかの私的関係性のなかにおいて、交渉事による事態の打開が目指されるほかない。このような場合こそが、広義のプライベートエクイティの領域である。広義の、という意味は、融資から株式までの全体を含んだプライベートな関係性に基づく金融機能ということである。

事業の継続にとっては、必要資金を確保することは、決定的に重要である。一方で、事業環境は日々変化する。それも、現代では、変化が激しい。どうかすると、激しすぎて、一時的には、経営能力の限界を超えることもある。

環境変化は、事業キャッシュフローを著しく不安定なものにし、その将来の見込みを困難にさせる。そのようななかで、資金の調達を銀行等の融資に過度に依存することが、いかに危険なことかは、すぐにわかる。事業キャッシュフローの変動が、直ちに、資金調達を不安定にするからであるす。

こうみてくると、なぜ、資本市場の育成が経済にとって重要なことかもわかる。社債や株式を通じた長期安定資金の調達は、事業の安定的継続のために、不可欠なのである。しかし、その資本市場にも、問題がある。資本市場そのものも、大きな変動にさらされていて、常に、安定的に機能しているとは限らないことである。資本市場に依存した資金調達にも、それなりの危険がある。

そして、何よりも問題なのは、資本市場調達ができるのは、ごく限られた数の、主として大企業だということである。ほとんどの中小企業にとって、銀行等の融資以外には、資金調達手段はない。このことは、高度に資本市場の発達した米国においてすら、ある程度、真実であり、欧州大陸、特に日本では、一段と深刻な真実である。

だから、広義のプライベートエクイティの機能が、社会的に必要なのである。社会的に必要な機能だからこそ、プライベートエクイティ投資からは、安定的な収益が期待できる。投資収益の安定性は、金融機能としての社会の必要性が規定するのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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