FIFA調査の瓢箪から飛び出したとんでもないコマ


サッカーの世界競技団体であるFIFA(国際サッカー連盟)の幹部14人が、汚職・贈賄の疑いでアメリカとスイスの司法当局に逮捕されるというニュースが報道されてから2週間になります。逮捕された容疑者のうち7人は、FIFAの年次会議に出席のためスイス・チューリッヒのホテルに滞在中、5月27日早朝寝込みを襲われた形になり、ドラマチックな映像を世界に提供する羽目になりました。

こうした事態にもかかわらず、FIFAのブラッター会長は会議の開催・続行を指示し、会長選挙で5期目の再選を果たしましたが、各方面からのプレッシャーにより、6月2日付で辞任を表明しました。

FIFAの腐敗ぶりに関しては長い間欧米のジャーナリズムから指摘されていた、いわば公然の秘密でしたので、今回のアメリカ司法省の摘発に関しては、「なんでアメリカが?」という驚きはあるものの、かえって遅きに失したという印象すらあります。

しかし、容疑者逮捕からのFIFA捜査・報道のなかからとんでもない追加スキャンダルが飛び出しました。


2010年南アフリカ開催のワールドカップへのヨーロッパ予選、フランス対アイルランドの試合の第二戦目はパリのサン・ドニ・スタジアムで2009年11月18日に行われました。第一戦目(同月14日)においては、ダブリンのクローク・パークでフランスがアウェー・ゴールを決めていて有利だったのですが、第二戦ではアイルランドのエース、ロビー・キーンが前半33分にゴールを決めて同点に並びます。試合は延長戦にもつれ込んだのですが、延長10分を過ぎたところでフランスがフリーキックからアイルランドのゴール前にボールを蹴りこみ、フランスのストライカー、ティエリ・アンリのアシスト・パスを受けたギャラスがヘッディングで決勝ゴールをあげ、結果フランスが予選通過しました。

しかしこの決勝ゴールにつながる一連のプレーで、ティエリ・アンリは明らかに手でボールをコントロールしていたのです。プレイバックのビデオでもそれは見てとれますし、後日アンリ自身が「あれはハンドだった」と認めています。


この一件は一大誤審事件として、アイルランド・サッカー協会(FAI)も、アイルランド政府も、FIFAに対して再試合を要求していたのですが、FIFAは試合審判のピッチ上の判断を最終判断とし、アイルランド側の要求を退けました。

このままで一件落着していたら、このエピソードもスポーツではよくある「誤審事件」の一つとしてサッカーファンの記憶に残るだけの運命だったのでしょうが、今回のFIFAスキャンダルの勃発でとんでもない裏バナシが浮上してしまったのです。

ラジオ番組で今回のスキャンダルについて語ったアイルランド・サッカー協会のジョン・ディレイニー会長が、2009年の誤審騒動の際、アイルランドが法的手段に訴えて誤審問題の解決をFIFAに迫らぬよう、FIFAがアイルランド・サッカー協会に対して約500万ユーロの金銭を支払ったということをばらしてしまったのです。

この暴露を受けてFIFAも声明を発表し、金銭支払いの事実を確認しています。当初は利子ゼロのローンという取り扱いだったようですが、後に返済免除としたとのこと。


ことの本質は、誤審問題が肥大化することによってワールドカップ予選大会の運営に支障を及ばすことがないようにという目的で、ダメージコントロールの一環として行われたディールだったのでしょうが、これを衆目のとどかないところで金銭の授受を通じておこなった為、FIFAの隠匿体質と「なんでもカネで解決する」というネガティブなイメージをイヤというほど強調する結果となりました。

アイルランド協会においては、ファンの目の届かないところで裏取引をしていた事実が判明し、ファンの期待と信頼を裏切ったという、ごもっともな批判の的となっています。

私個人としてはラグビーをやっていたものの常として、サッカーというスポーツ自体をいつもからかい半分の目で見てきましたが、ここまで競技団体がファンの気持ちを踏みにじってきたのかという事実を目にしてしまうと、サッカー少年・少女たちの気持ちを慮り、他人事ながら怒りがこみ上げてきます。

もうこれ以上キタナイものを見せてほしくないと思うと同時に、ほかにもいろいろとあったのではないかという、イヤな思いがこみ上げてきてしまうのです。イタリアやポルトガルあたりが、2002年のあの試合のことを持ち出してくるのではないかと。