アメリカの家計や企業を、卵クライシスが直撃 --- 安田 佐和子

米1-3月期国内総生産(GDP)は原油安、ドル高に加え大寒波、西海岸の港湾労働者ストライキという一時的要因でマイナス成長を余儀なくされました。4-6月期は米4月貿易赤字の縮小に加え、米5月新車販売台数が約10年ぶりの水準へ加速し回復期待を募らせる一方、新たな問題が浮上しつつあります。


米経済をスクランブルさせかねないかく乱材料こそ、卵。

2014年12月に確認してから全米で鳥インフルエンザが瞬く間に蔓延し、卵不足に陥っているためです。レストラン産業を容赦なく直撃しており、テキサス州フォートワースのレストランの場合、1週間当たりの卵消費量は3600個以上に及ぶところ調達コストは通常より約200ドル跳ね上がっているのだとか。NBCのローカル局は、各レストランが値上げできず利益縮小に陥りつつあると伝えていました。家庭にも波及しており、ワシントン・ポスト(WP)紙はテキサス州を中心に約350店舗を抱えるスーパーマーケット大手H-E-Bで、1人当たり3箱までとする販売制限を導入したと報じています。

ニューヨーク州も、例外ではありません。12個入り1箱の値段は5月5日時点で1.19ドルでしたが、ニューヨーク・ポスト紙によると、前週には2.62ドルに跳ね上がったといいます。フォックス地元局は、ロングアイランドの非営利団体(NPO)でエコノミストを務めるマーティン・カンター氏の見解を引用し、年内は卵の値上がりが続くと報じました。もちろん卵を使う商品も上昇するためマヨネーズ、ドレッシング、ケーキ、アイスクリームなどに波及する見通しです。米食品供給大手シスコは、卵および雌のニワトリ不足が向こう9ヵ月から最大18ヵ月続くと予想していました。

卵の12個入り1箱の値段は目下、急上昇中。


(出所:USDA

米農務省(USDA)のデータでは、6月4日にも感染例が届いており収束までの長い道のりを感じさせます。ニワトリだけでなくターキーといった家禽類を含め、これまでに4670万羽以上の感染を確認してきました。

レストランや家計だけでなく、企業への余波も見捨てておけません。卵といえば朝食に欠かせない食材とあり、すでに再編計画のまっただ中にあるマクドナルドは少なくとも一ヵ所のサプライヤーで感染を確認しています。1-3月期決算が好調だったスターバックスのほか、ダンキン・ドーナツ、デニーズやiホップの親会社ダイン・エクィティなどは現状で問題を報告していないものの、卵の値上がりに無傷でいられそうもありません。「累卵之危」と表現するのはオーバーでしょうが、卵クライシス侮るべからずといったところでしょうか。

鳥インフルエンザの流行の陰で、恩恵に預かるのは代替食品メーカーです。例えばハンプトン・クリーク・フーズのジョシュ・テトリック最高経営責任者(CEO)はCNBCに対し、需要の上振れを受け「シスコ、USフーズ、ユナイテッド・ナチュラル・フーズなどといった食料配給大手と提携済み」と応じていました。食品関連アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドといった穀物メジャーも、顧客の変化を報告。鶏肉やターキーを使用せず複数の卵が必要なオムレツなどの朝食メニューより、卵の消費量が比較的少ないパン、クッキー、マフィンといった商品へのシフトを検討し始めているといいます。選択肢を広げる企業の戦略は、「全ての卵をひとつのバスケットに入れるな」という諺を彷彿とさせますね。

(カバー写真:rob_rob2001/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年6月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。