株主総会、変わるその意義

岡本 裕明

株主総会の時期を迎えましたがそのトップを切ったトヨタ自動車の総会は3時間2分の激戦だったようです。この数年、企業の不祥事や業績に関して株主の高い関心からマラソン総会となる場合はありましたが今回のトヨタの総会は何がそうさせたのでしょうか?

同社が議案に持ち込み、議論を巻き起こしたのは全く新しい種類株の発行案件でした。議決権付き元本保証ながら5年間は売却できず、利率は毎年0.5%ずつ上がるという仕組みに会社側の説明は長期安定株主の支えによる開発資金の確保というものであります。

それに対して機関投資家やファンド、個人から様々な意見が出され、白熱した総会となったのであります。この新種類株の是非についてはともかく、私は経営案件でここまで討議する株主総会が日本でも行われる時代になったということに注目しています。

ご記憶にあろうかと思いますが、かつて株主総会とはシャンシャン総会で20分、30分で終わるのが当たり前でありました。私が勤めていた上場企業でも総会の直後、社内放送で「ただいま総会が無事終了しました。総会に要した時間は○○分でした」という今、考えてみればわざわざ時間にこだわった社内放送があった理由は早ければ早いほど良いとする風潮があったとしか思えません。

その頃、いわゆる総会屋という反社会的団体に総会がスムーズにいくよう段取りを謀る総務部長がマスコミで絞り上げられていました。そんな団体や人間を使ってでも総会を早く、無事に終わらせたいというのは株主の権利を否定していたともいえます。総会の前の方の席には従業員株主をずらっと並ばせ、総会の流れの空気を作り上げます。ちゃんとリハーサルがあってここで拍手、ここで声を上げるというシナリオもあったようです。

会社は誰のもの?という議論を日本で時々見かけます。候補は株主、経営陣、従業員であります。日本では従業員あっての会社という発想が脈々と続いているため、このような質問が生まれるのですが、北米ではこの質問そのものがナンセンスで会社は株主のモノという一定のコンセンサスがあります。

組織の発展の仕方が違いますので日本における会社の精神的所有権は従業員にあるという発想は否定しません。今でもサラリーマンの方と話をすると「うちの会社では…」と普通に言っていると思いますが、「うち」つまり自己所有の意識がそこにあり、一心同体化しているとも言えるのでしょう。

ところが終身雇用が徐々に減り、リストラに中途採用、転職に外国人従業員、更には派遣社員という被雇用者の形態が大きく変わる中で「うちの会社」の位置づけはよりドライに変ってきているのでしょう。

その中で株主の権利が急速に見直されてきたのが今日の日本企業ではないでしょうか?一昔前は株主優待で安定株主作りをしてきました。なぜ、証券会社がコメを株主優待で送り付けるのかよくわからないような時もありました。それがいまや、配当性向を引き上げ、株主にいかに報いるか、その方策に企業は努力します。

アメリカのアクティビストと称する投資ファンドのうるさ方が現預金が多すぎる、経営効率が悪い、経営指標をもっと引き上げよ、売却すべき資産があるとチャチャを入れるのが普通になりました。あの富士山麓に位置しメディアですら行きたがらなかったファナックも遂に「開国」させられたわけですから株主の権利がより一層強まっているのが今の時代の流れであるとみて良いでしょう。

その中で今回、トヨタ自動車の様に発行する新株の詳細についてここまで議論をする時代になったのか、と思うと株主がその権利の範囲の中で最大限の力の行使をしていることがうかがえます。また個人株主も投票権では力が及ばないにしても鋭い質問で社長をはじめとする経営陣を唸らせることがより一層増えてきました。今年の総会でも鋭い質問、嫌味な質問をされる企業が多いでしょう。(そのあたりは日本人の独特な執拗さもあり、単に壇上の経営側を困らせることを趣味としているような場合もあります。これは同じ日本人として品位、品格の問題を感じてしまいます。)

日本に於ける株主の地位は明らかに変わってきています。それに伴い経営側はIRのみならず、企業活動のより一層の開示と株主らとのコミュニケーションが更に重要になってくるでしょう。これから2週間、日本は熱い株主総会の激戦が繰り広げられます。思わぬ会社の思わぬ展開もあるのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 6月17日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。